[漫画]天使のわすれもの『大空の侵略者』ネーム(シナリオ) – 初稿

[漫画] 天使のわすれもの『大空の侵略者』のネームシナリオです。

ネーム起こしから練ったネームのシナリオ版になります、
ペン入れの前には、ネーム(下描き)を公開する予定です。
[制作過程を全て公開中]

※こちらのページは初校になります、整理した二校は下記になります↓

以下、初校です。


表記ルール:

下記にシナリオの表記ルールを示します。
(小説ではないので、台詞を鉤括弧にはしていません。状況説明も最小限です。)

  1. *は名前、それ以降は、その者のセリフ。
    セリフの明示的な改行は、吹き出しの中でもその位置で改行することを表す、それ以外は適宜。
  2. *ナレーション< >は、吹き出しではなく四角囲みのセリフ。ーーは長棒。
  3. ( )はふきだしをもたないセリフ、主要ではないが説明を補完するためのセリフの場合が多い。
  4. は、シーンの状況を説明する文章で、漫画のコマには実際には書かれない、説明内での()は備考。
  5. –[ ]は、原稿についての説明。見開き指示など。コマの絵をこのように描写する、ということを表す。
  6. ーーーーは明確なシーンの区切りを表す、大きいコマの区切りなど、分かるよう記載している。
  7. 第1幕、などの幕数表記は目安で、あくまでシーンを分けるためのもの、タイトルも適当で作中では表示されない。

以上。

主な登場人物など

※その他参照はこちら→ 世界設定イラストギャラリー

第1幕「トビヲ」

–[冒頭シーン、1ページ目]

*ナレーション
<遥か遠い時代、
 人は空に住みーー、>

<そしてーー、
 闘っていた。>

–逃げる天使、羽を持つ巨大な魚のような生き物が、襲っている。
–天使は蛇行し回避しながら、反撃を繰り返している。天使の名はガイアナ、通称ガチギレだ。
–迫りくる巨大な魚のような生き物は、翔尾(トビヲ)だ。
–空には天使とそれを喰うトビヲがいるのだ。

–天使は何かを気にしながら戦っている。

–無数のトビヲに、ガチギレが苦戦中
*トビヲ
ギャアギャアギャア
テン・・・シ・・・
テンシ・・・クウ
・・・天使・・・喰う・・
–トビヲの叫びとも囁きとも不明な不気味な声が聞こえる
–もっともそれが声なのか、思考に働きかけてくるものなのか、
–それとも恐怖がただの鳴き声をそう聞こえさせるのかは不明だ。

–不気味極まりない怪音
*トビヲ
ギャアギャアギャア
テン・・・シ・・・クウ

*ガチギレ
く、くそぉ・・・!
–ガチギレが眼下をしきりに気にする
–船が見える、商人達の飛行船だ
–無数のトビヲが飛翔し、船は今にもトビヲらに追いつかれそうである
間に合わない!!
–焦るガチギレ

ーーーー
–[見開き]
–[構図は、コマの中央に襲われている船を、コマの左上部に奥にいる巨大トビヲを、右下部には手前の巨大トビヲ、といった配置]
–商船が無数のトビヲに襲われている。
–堕ちていく船と船員、船の残骸、それらを喰らうに無数のトビヲがまるでハゲタカだ

グォオオオオオン
オン オン オン オン

–挟むように巨大なトビヲが2体
–その巨大なトビヲには無数の小さなトビヲがしがみついている
–小型のトビヲは羽が小さい、彼らはおそらく大して飛べないのだろう
–小さなトビヲには人の姿に似たものもいる
–なかには、隣のトビヲを食い散らかしているものもいる
–悪魔、そう言ってしまえばわかりやすい生き物だ

–墜落していく船、その中を飛ぶガチギレ
*翔尾(トビヲ)
テン・・・シ・・・クウ・・・テンシ
ギャアギャアギャア
–相変わらずの声ともつかない怪音
スッ
–ガチギレがリングにスッと手を添えた
*ガチギレ
遡上!!
–墜落していく船の間を飛びながら、ガチギレが叫ぶ
–空を守る守護分隊兵士が時間を遡るときに発する呪文のような言葉
–時間を遡って、対処するのだ

ーーーー
–[次のページ、先ほどのシーンで墜落させられた船がのんびりと飛んでいる]
–先ほどのシーンの、少し前の時間のようだ。
*ナレーション
<一刻前、ーー。>

–[このシーン全体で船員が天使であることは分かりにくく、マントで羽を覆った衣装にしておく。実際、杜使いと交渉する時は羽を隠すのがマナーとされている。]
–[
また、船員は船長プラス船員ABCの四名ほど登場させるが、性格をすべて異なる感じに設定し、リアリティが滲み出るようにすること。
船長:がっしりしたイケおじ。少し海賊風な風貌あり。各港で珍しい品を買い集めるのが趣味。
船員A:しっかり者の先輩。わりとしっかりした顔つき。
船員B:べんちゃらいいの軽薄なアロハ。細面。
船員C:臆病者のへっぴり腰、腰パンランニングシャツ。羽隠しは帽子から垂れた布。
船員D:モブ、適当に。
]

–商船のデッキ
船長らしき男が、
クリスタルと銀食器がくっついたようなグラスを片手に持ち、
金色の縁のリングを指でなぞるように撫でている。
(音)キューッ キューッ ・・・

注いであるのは高級な酒のようだ。

男はそのグラスを飲み干すと、
縁にあるリングを撫でながら呟いた。
*船長
遡上・・・。

ススススッ
–[グラスがブレている映像]
–グラスが再び酒が満たされた。

*船長
フフフ
–嬉しそうな船長

–船員が寄ってくる
*船員B
なんですか嬉しそうに

*船長
(これだよ、これ。)
–船長がグラスを嬉しそうに船員に見せる
さっきの港で、手に入れたんだ。

通称『やり直しのグラス』だ。

–中には高そうな酒が満たされている。ウイスキーだろうか。

ゴクン
–また、飲み干した

*船長
呑みすぎたなー、と、後悔したとするーー、

そんなときは、リングを擦(こす)りながら、

キューッ
–グラスの淵を擦る

*船長
遡上。
–船長がブレて見える
–(ブブン)
–船員目線だと船長がブレて見える

*船長
スススス。
–再び酒が戻る。
ほら、酒が、
もと通り。
–グラスを見せる。たしかに、飲み干したはずなのにグラスに酒がもどっている

*船員B
え?!
–びっくりする船員
(すごいっすね!!高い酒が飲み放題?!)

*船長
(ハッハッハ)
「遡上」と唱えて時間を数秒遡った俺は、
今度はこの酒を呑まなかったのさ。
(「呑まなかった」ことになったわけさ)

*船員B
(え?!)
時を戻す?

守護天使が持つ輪(リング)みたいに?

*船長
まぁ、そうだな。
(ハハハハ)
もっとも、このグラスは、ほんの数秒前までしか戻せないんだ。
天使の輪ほど長い時間を遡ったりはできないんだなあ。

(あ、だから飲み過ぎちまったって思ったときだけだな。)
(クスクスクス)

*船員B
でもでも、
なんか使い道次第じゃないっすか?!(興味津々)
すごいっす!
(なんか金儲けに使えないすかね)

ーーーー
*船長
ただなあ。
(それがよ、)

時を戻して、飲まなかったことにしたら、

なんだか、飲んだ気分も無くなるんだよ。

いやさ、
「半分は飲んだ気分で、
 半分は飲んで無い気分」かな。

(うんうん、
そんな感じだ。)

*船員B
(えー?!)
それって、
なんかビミョーっすね!
*船員たち
(わっはっは)
(これ、何かに使えるんすか?!)

–笑う船員たち、一人の船員が遠くの空に光るものを見つける
*船員A
ん?

キランッ!
–彼方に何かが光った
*船長、船員たち
?!
鳥?

いや・・・。
–天使だ。
なんだ、誰だ?!

ーーーー
ギュィイイイイーン!!!
–ものすごいスピードで急降下してくる天使

ーーーー
*船員たち
!!
ーーーー
ズダーンッ!!!!
–ものすごい勢いで天使が甲板に降り立った
–ガチギレだ
–船が衝撃で揺れる
*船員B、と他船員
ヒィッ!!

*船長
なんだ!

ーーーー
*船長
守護分隊が何の用だ!!
–慌てる船員を押し除けて船長が怒鳴る

ーーーー
*ガチギレ
この船は堕とされるっ!!
–船長や船員の言い分など無視するように言い放つガチギレ

この船の速度では逃げきれない、
今直ぐに退避しろっ
–ちゃんと説明しない。手短に、ほぼ命令。
–慌てている、船員達
*船長:な、何を勝手な、大切な積荷はどうするんだ?!
*船員B:そーだ、そーだ、(だいたい何が起きたっていうんだ)
*船員A:積荷は船乗りの命だ!(この、守護天使分隊風情が!)
*船員C:ヤンヤ ヤンヤ(政府のイヌめ)

–ガチギレの足、腕、顔に遡上跡が浮かんでいる
シュウシュウシュウ

–船員Bがそれに気づいてビビる
*船員A
そ、遡上痕(そじょうこん)・・・!
–船乗りたちは守護分隊兵がどんなときに遡上するかを知っていた
–焦る船員たち

*ガチギレ
そうだ。
この船は、トビヲに襲われた・(※「た」に「・」のルビをふる)

積荷と命を天秤にかけるようなら、
今ここで翔尾の餌にしてやる!
–[ガチギレの腕のリュウが「シャーッ!」と威嚇する]
シャーッ!

*船員C
!!
ヒッ
–船員がビビったその時、時間統合が始まった
(ドックンッ!!)
こ、これは・・・
ドクンドクンドクン

・・・デジャ・・ブ・・・

*ガチギレ
刻(とき)が交わり始めた!
一刻(いっこく)の猶予もないぞっ
急げ!!

*船員C:な、なんなんだよー!
*船員A:これは二度目ってことだ!荷は捨てろ!逃げろー!!
*船長
た、退避ー!!
全員退避だー!
トビヲがくるぞー!

ーーーー
*船長
総員退避ー!!!!
–船員たちは大慌てでボートへ
*船員A:皆、救命ボートへ!!
*船長:速度の落ちるようなものは全て捨てろー!!
–速度の出る救命ボート、イカマシンの改良型みたいなロケットボートで脱出しようと大慌て
–[イカマシン=スルメイカ2枚を大きなリングで繋いだような形状の飛行補助具。もともとは怪我や病気や生まれつきなど何らかの理由で飛行が困難な天使が使用する飛行を助ける道具であるが、大型化され飛行船での緊急脱出用にも常用されている。飛行困難者であるハート氏も愛用している、ただし高出力型へ改造している模様。]

–その直後、巨大なトビヲが雲間からヌゥッと顔を出し、船に接近してきた
*船員たち
お、大きい・・・

–ゴクリ唾を飲む、船員の顔のアップ、汗を垂らしている、顔はトビヲの影で暗く
–こんなものいったいどうすればいいのかといった恐怖に怯えた表情

ーーーー
–[冒頭見開きシーンとは違う角度から、位置関係が分かるようなカット]
–[コマ中央に船、両側に大きなトビヲ、いずれも小トビヲをびっしり纏っている]

–船にひとり残り、かがみながら矢の先端に、鏃(ヤジリ)に手榴弾を装着する
クリック(ヤジリにねじ込む音)
クリック

ーーーー
–[上空の脱出ボートの船員たちから見た光景]
–雲間に強烈な光が瞬く
ドゥ!
ドゥ!
ドゥ!

–逃げることができた船員たちが怯えながらガチギレの様子を見ている
*船員
閃光手榴弾?!

ドゥ!
ドゥ!
ドゥ!
–何度も何度も閃光が瞬く

*船員
あいつ・・・、
船を囮に使う気か

カラカラカラ
–意味深に転がる「やり直しのグラス」

ーーーー
グォオオオオオオオオン オン オン オン オン
–[冒頭のシーンと同じカット、今度はガチギレのみで、船員なし、船は炎上はしていない]
–[よく見ないとわからない程度の違いとして、ガチギレは今度は閃光手榴弾避けにフードを目深に被っている、細かい箇所のみが異なるカット]
–[トビヲ同士が「やり直しのグラス」を奪い合うかのように船にぶつかってくる]
–巨大トビヲの間に閃光が瞬く、トビヲは目潰しをくらった状態
–周囲を飛ぶ小さなトビヲも大混乱
*小さいトビヲ
ギャアギャアギャアギャアギャア

–目眩しをくらった近接した巨大なトビヲ同士が接触する
–ガチギレなおも周囲を飛び回る
–[船員たちのビビる顔をずらっと、横方向からのカットで]
–トビヲが墜落していくのを見て驚いている船員達
–[巨大な2体のトビヲがぶつかり、唸り声をあげ、墜落する]
ズゴゴゴゴゴゴゴオオオオオン
グォオオオオオオオオ
–空間を震わせるほどの轟音(巨大トビヲが衝突し砕けていく音)
バキバキバキ バキバキバキ
–ものすごい轟音と煙
ズズズズーン

第2幕「作 戦」

–[島についた救命艇、破損しているが船員たちは皆が無事のようだ]
–島の港に不時着した救命ボート、破壊された商船の残骸などを、第六区守護分隊ビック達が片付けてる
–周囲は船を失った船乗り達が頭を抱えたり、抗議しようと言っていたりで騒然としている
*船乗り達
船長:(なんとか積荷だけでも回収を)
船員B:(船を引き上げることはできないのか)
船員A:(俺たちの財産なんだ)
*守護分隊兵士達
(命があっただけありがたく思え)
(今頃はもう海のモクズだ)
ヤイノヤイノ
–船乗りたちがなんとか積荷の回収をと訴えてはいるが、ビックは無視してガチギレに注意している
*ビック
まーた、
勝手、しやがって。
–守護分隊のリーダーのビックが、ガチギレをたしなめる
–ビックは、独断先行で勝手に先手をうったガチギレを、上官として怒っている
こういう場合は、
俺たちが着くまで
待ってから・・・

遡上して作戦を立て、
陣形をとって闘うとか

*ガチギレ
船尾にトビヲが、追いついたのを見て遡上した!
–船の残骸を指差しながらガチギレ、
–ビックとの上下関係をまるで気にせず、振り向きもせず応える
*ビック
むっ、
しかしトビヲ同士を
衝突させるなんて

突拍子もない、
もしおまえが巻き込まれて・・・
–おそらくは「おまえに何かあったら」的なことを言いたいのだろうが、それを言って納得する相手でないことは分かってビックは言葉を濁す
–(実際、通常、分隊兵は最低2名のユニット単位で作戦行動を行う。隣の者がやられたら、隣の者が遡上を使ってカバーする。時間遡上が彼らの盾だからだ)
–ガチギレがうるさそうに言い放つ
*ガチギレ
あのサイズの翔尾(トビヲ)は、
普通の武器じゃ堕ちない

あんたはいっつも、遅すぎるっ!
–部下から叱責を受けた形のビック
*ビック
クッ・・・
–(モブ兵など他の部下の反駁に対しては軽く嘲笑う余裕もある、が、ことガチギレには手を焼いている様子)
(く・・・)
–[睨み合うガチギレとビック]
–この二人、何か、いわくがあるのだなといった空気が流れる
–(ビックはガチギレを拾って育てた親的な立場でもある。
– ビック当人が自身の行動の遅れでガチギレ両親を救えなかったと思っている。
– そんなわけで普段からの多少の乱暴な発言もスルーはするし、慣れてもいるが、
– モブ兵たちの前で何度も反論されると、さすがに、ちょっとイラっ)
*モブ兵:(やれやれ)
–モブ兵たち、両手を上げて、やれやれといった仕草。ガチギレの独断先行は良くあることなのだろう。
–(皆はこの二人の関係をよく知っているため、しかたないいつものことだ、と苦笑い、といった様子)
–そんな事情を知らない船乗りたちは、なんだかわからない、頭にあるのは積荷と船のことだけ
*船員:(海へ落下した積荷・・・。回収を・・・。今ならまだ・・・。)
*モブ兵:(むりだ、むり)

*ガチギレ
ノロマ
–ボソ
–プイッとあっちへ行きながらガチギレが吐き捨てた

*ビック
なに・・を
–その適当すぎる行動に、さすがにカッチーンとキレたビック

–ケンカが始まる
–いつものことらしい
ドカバコズコ
–(訓練の延長のような戦い)
*モブ兵たち
(やいの
 やいの)

–[指揮官の船が接岸]
–[指揮官マアム登場]
*マアムの声
コラー!!

やめんかーい

–船から降りてくるマアム
*マアム
(まったく何をやっておる)
–[指揮官船からマアムが降りてくる。横長の大コマで中央にマアム、両サイドにテングとハート氏。後ろの影にはドローンたち、なにげにグレイもいる。]
船員の命も無事、
隊員の命も無事ーー、
不満なことなど
ひとつも有るまいて。

*兵
マアムだ
マアムだ
–モブ兵達、指揮官の到着に威を正す
敬礼!!

–まだ、後ろの方で争っている、二人
ゲシゲシ
*ビック
(オレがどんな思いで)
*ガチギレ
(アンタは遅いんだッ)
ゲシゲシ

–いつものことなので、この二人のことは放置気味にし、マアムが船員たちに言う
*マアム
商船は、
中央政府が
弁済する

–(中央政府からの検査官のよう近衛兵が形式的なのだろう、マアムの後ろに立っている。巻き毛の王立近衛兵風のイケメンだ。)
*マアム
この書類で、手続きを。

*近衛兵
積荷が、中央政府の
請負品でよかったな。

*船員
嗚呼!
ありがとう
(たすかった)

–途方に暮れていた船員たちは、苦情をすんなり解消され、もうマアムの下に入った態度だ
有り難う御座います
ペコペコ

–一瞬で事態を収集していく、一応、指揮をとって長い経験があるのだろう
–マアムが、ビックたちへ呼びかける
*マアム
ビック!!
ガチギレ!!!

–二度の怒鳴り声で、我にかえる二人

*ガチギレとビック
ハッ
ハッ

–さすがに姿勢を正す二人

*マアム
あれだけの
大きなトビヲ相手に
よくやった!

あとで作戦室へ来いッ
–意外に、サクッと褒めて立ち去る。この後、この二人に活躍してもらわねばならない命令があるようだ。
ハート!
皆へ例の作戦の説明を
*ハート
はいっ
シューちゃん手伝ってねー
–マアムと一緒に降り立った小柄な天使だ。
ニャー(オーケ オケマル)
–おともに猫の天使がいる
–ドローンも歩いて降りてくる
–テングとナイト(グレイ)も降りてくる
–[…ナイトと「ナイト(グレイ)」は同じであり異なる]

*ガチギレ
あ、ハート氏、
おかえり〜!
–駆け寄るガチギレ

*ハート氏
ガッちゃん、ただいま〜!
9区からお土産があるよ〜ん
(最新兵器だよン ♡)

*ガチギレ
(やったー!!)

–うってかわってハート氏と楽しそうに話すガチギレ、それを見て多少安心するビック、頭をかきながら
*ビック
やれやれ
嫌われてるのは俺だけか
(まぁ、いいや)

ーーーー
–[ブリーフィング風景]
–戦略を説明する部屋の壁面に、軌道都市全体を俯瞰した図が貼られている。
–図には太陽系図のように中央都市を中心に各軌道都市が回転しているのが分かる。
–それぞれの都市(島)には「壱区」から「九区」まで、番号が書かれている。
–六区と九区はかなり外側をまわる島だと分かる。

–高官なのだろう身なりの整った兵が説明を始めた、九区から来た近衛兵だ。
*近衛兵
昨日(さくじつ)、第九区軌道より
約(およそ)1400リーグ付近で、
巨大なトビヲの群れが発見された。
–(神妙な面持ちで聞き入るビックや主要な兵たち)
斥候からの報告では、巨大な複数のトビヲが確認されている。

群れは軌道都市中心へと方位をとり、
およそ1日に1000リーグの速度で進行中だ。
(奴らの狙いは、軌道都市中心都市だ。)

*ビック
(90ノットなら、トビヲにしては遅い類だな)
*モブ兵
(でかそうですね、いったいどのくらいなんだ・・・)

*近衛兵
本作戦は、九区と六区他との合同作戦となる。

では、ハート氏、説明を。

–[近衛兵、顔を顰めながら少し避けるように横にずれる。育ちの良さゆえだろうか、粗野な六区住人のハート氏とガチギレやビックを、なんとなく差別して蔑んでいるようだ。]

–近衛兵が小柄な天使に説明を促した、ハート氏は軌道計算に長けた博士だ。
–九区から来たということは、事前に打ち合わせがあったということだ、規模の大きな作戦なのだろう。今日は、ふだんの油まみれのつなぎとは違い、そこそこ身なりもちゃんとしている。
–ハート氏は、学のない六区の兵たちにも、なるべく分かるよう、図解を用いて説明しだした。
–[図には六区と九区が軌道上で接近すること表した矢印が書かれている]
*ハート
知っての通り、九区は軌道都市の
一番外周を回る、軌道都市防衛の
ための要塞です。

現在、九区は軌道進行スピードを落とし、
六区に接近しています。

この後、九区はアンカーを投下し、
停止係留します。

我々六区守護分隊は、その間に
九区へ乗り移り合流します。

*モブ
(夜明けまで、この空域でトビヲを待つってわけか)

–図解では、九区が軌道進行スピードを落として六区に近接、
–六区から守護分隊が九区へと移り、その後トビヲの大群を
–急襲する合同作戦が描かれていた。
–[マップの九区に停止マーク(駐停車禁止マーク)がついてる、矢印で天使のピコたん人形みたいな人形複数のマークが六区から九区へ移動していくのが分かりやすく端的に描かれている]

九区は夜明けと共に、
抵高度から上昇し、
軌道上で巨大なトビヲの群れと
鉢合わせし迎え撃ちます。

*近衛兵
高空からの急襲部隊は、
九区のテングが指揮をとる。

ビックは顔馴染みだな。

–テングが歩み出てぺこりと軽く会釈する
–ビックに目配せする

–ビックもそれに気付いて応える
–かつての戦友であり盟友同士だ。

*ビック
(おう、)
九区は相変わらずか。

*テング
ああ、このところ、
大型の襲来が増えてる。

今朝ガッちゃんが
堕(お)とした大型、
九区でとり逃した奴だ。
すまない。

–九区で兵力が足りていれば、六区へ援軍要請になど来ない。
–六区へ彼らが来たということは、激戦で(死者が多数出て)人手不足になったのだろう。

–会議の最後に、マアムが注意を伝達する
*マアム
今回の合同作戦での
これ以上の兵の損失は避けたい。

ガチギレ、独断先行は無用だぞ。

–ビックがそれみろといった顔でガチギレを見る
–ガチギレ、マアムには頭が上がらない
*ガチギレ
は、はいっ(汗)
*ビック
(ニヤッ)
–少しニヤッとするビック
–あ、むかつくなんだその顔、と、ビックを見るガチギレ

*マアム
今回は九区の主砲が主役だ。
(諸君らの任務は、
 九区の防衛である。)
(主な任務は、
 爆発反応装甲の設置や、
 その他後方支援だ。)

–ミーティングが終わり、
–各自持ち場へと散会する兵士たち
–テングが、では後で、とビックに挨拶しようとしにくる。一応久しぶりなので、世間話。
*テング
ガッちゃんの活躍ぶりは、
九区でも耳に入ってくるぞ。

*ビック
あ?
まぁ、勝手な奴だが、
トビヲの習性については、
くやしいが誰よりも
的確に捉えてるよ。

–ドン!
–ガっちゃんがビックの後ろをわざとぶつかって通る。
*ビック:(うわっ)
*ガチギレ
ジャマだよー
(大男二人が通路で立ち話なんて、狭い通路が埋まるよ)
*ハート
ほら、装備を運ぶの手伝って
–テングにまで荷物を持たせる、ハート氏
(急いで
 急いで)
–ガチギレは、ビックに珍しく褒められたのが少し聞こえて、照れ隠しもあるようだ
*ビックとテング
へいへい
–運びながらガチギレに雑談するハート氏
*ハート氏
サイズは合うと思うわ
(ブーツのソールが高いから
 歩くときは注意してね)

–(九区から持ってきた装備は、六区でハート氏がフィッティングして、準備してから九区へ向かうのだ)

ーーーー
–[九区へ移動のシーン]
–[夕焼けの中、輸送機で移動する一行、眼下に六区と九区が見える。九区は係留アンカーを下ろし停泊中だ。(ここでアンカーがあるのをアピールする。後半の前振り。)]
–[輸送機は風通しの良い構造だ、皆羽があるから落下する心配はないからだ。]

*ビック
–感慨深げに輸送機から九区を見下ろしている、九区の武装を身に纏っている
九区・・・か。
–(懐かしいな・・・)

–九区を見つめるビックにテングが話しかける
*テング
大槍が大砲に換装されてな、
昔よりは遠くのトビヲを仕留め易くなってはいる。
人員不足は深刻だからな、
剣と槍の時代は終わりつつあるよ。

–九区の装備をまとったビックに、昔と今の違いを話したりしたことで、テングの脳裏に想い出が蘇ってくる
–吹きさらしのデッキにはガチギレが、すっくと立っている。(ビックの向こう側に見えるガチギレ)九区の装備を纏ったその姿を見ながらテングがビックに言う
*テング
ユーリーさんに似てきたな。
–背後にユーリーの姿が重なる。

*ビック
・・・。

ああ、あいつは
母親似だな。

*テング
昔はよく三人でーー、

遠くまで
翔んだなあ。

–[辺境の島、一休みしている兵士三人](テングの回想シーン)
–[小さな島の上に三人の兵士がいる、一人は女性で立って遠くを見ている、ユーリーだ]
–[少し離れたところに大の字で倒れている大男は若いときのビックだろう、テングは石に腰掛けて羽を休めている。(若いときのビックはわりとイケメン)]
–備考:戦闘能力的には下記の順
–・スピード:ユーリー、ビック、テング
–・パワー:ビック、テング、ユーリー
–・長距離移動スピード:テング、ユーリー、ビック
–・頭脳:ユーリー、テング、ビック
–[なお、この三人の中ではユーリーがリーダー的な存在である。]
*ユーリー
(見て、九区があんなに小さく見える)

–立っている女兵士が振り返りながら、倒れている男に言う
*ユーリー
ビック、
もう、へばったの?!

*ビック
ユーリー、
–(遠くまで巡回させられてへばったのだろう、草に大の字で倒れている)
ゼェゼェ
あんた、速すぎるぜ。
(まるで風だ。)

*テング
(こんなに遠くまで、見廻らなくても)
ふぅ

*ユーリー
ビックは筋トレばっかしすぎなんじゃないの?
(ウェイトあげすぎなんじゃない)
(そんなんじゃ、いざという時に遅れるわよ)
ブブン!ブン!
–カミソリのような先端の幅広の刀を軽々とふってみせる。自分はまだぜんぜん余裕だ、といった感じ。女剣士といった感じ。

*ビック(うへぇ)
どうせ、アンタには、かなわねぇよ。

–[構図:三人の引いたショット、歓談シーン。セリフは吹き出しなし。]
*テング
(うむ。ユーリーさんの言う通り、ビックは最近、食い過ぎだ。)
ビシッ
*ビック
(な、なんだ、おまえまで)
*ユーリー
(フフフフ)

ーーーー
–自信に満ちた表情でユーリーが言う
*ユーリー
今のアナタになら、この細い剣でも勝てるわよ
–大きなカミソリ刀を下に置き、シュッと細い短剣を抜くユーリー
シュッ

ーーーー
*ビック
おいおい、いくらなんでも
–(さすがに舐められてるなと、ちょっと怒ってる)

ズバッ!!
–ズバッとものすごいスピードで横に移動するユーリー

キン!
–ちょっと怒ったビックがその細い剣を手甲で払いのける

–払いのけざま、反対の手にもった斧を振り回す、それをユーリーは軽々とバク転して宙を舞うようによける
–[構図:空中からのユーリーごしの上から見下ろしたカット。手前にバク転しているユーリー、下に斧を水平に振るって上を見上げているビック]
ブブン!
–空中のユーリーがブレる

–激しい模擬戦闘が続く
–[構図:手前にビックとユーリーが剣を交えるシルエット、向こう側にテング]
–ビックがいくら斧を振るおうとユーリーにはかすりもしない
*テング
(ゴクリ・・・)
–手練れ二人の真剣勝負に、思わず手に汗にぎるテング

–テングから見た視界。二人の像がぶれだす、どちらかが遡上を使っている。まぁ、ユーリーだろう。
–すり抜けざまに、ビックの耳元で何かひそひそとつぶやくユーリー。
–何を言ったかはテングの位置からはわからないが、ビックのイラつきから、まあ心地いいことではなさそうだ。ユーリーの悪い趣味だ。
–遡上して繰り返している間の空間は、遡上する以前のポイントで統合される。
–具体的に言うと、さっき言われたことは言っていないことになり、言っていなかったことが言ったことになる、そんな空間だ。
–振り回された側の記憶はクチャクチャだ。
*ユーリー
・・・ビック・・・
ヒソヒソ
あのね・・・フフフ
ヒソヒソ

*ビック
っええい!!
(何が「刻(とき)の魔女」だ・・・こんなもん!)
ブン!!
–しかし振り回す斧はことごとくかわされる
–遡上した人間が、前のタイムラインと異なることをすれば、その周囲の世界はブレる、統合するまで歪みが生じる。
–時間遡上に熟達したユーリーは、その歪みを利用した戦いを好んで使う。
–ユーリーが『刻(とき)の魔女』と言われる所以だ。
–(ただ、「ユーリー」って名前が男みたいだってんで、最初に紹介する人にいつも、どのユーリーだって、みんなが男を探すから、「魔女(・)」って敢えて付けたともw)
–[ビックのセリフ「(何が「刻(とき)の魔女」だ・・・こんなもん!)」は描く時にそぐわなければこれは割愛する]
–なんにせよ、遡上で彼女の右に出る者はいなかった。

*ユーリー
動きは読めてる・・・

何度目だと思って?

*ビック
な、何度か・・・って、
ちょっと待て、
これも遡上の中か?!

視界がブレる
ユーリーが二人に、いや三人、見える

私は何度目かなあ
(フフフ)
もう、忘れちゃった

*ビック
ちょっと待てっ、
*テング
うぇ・・・
(乗り物酔いみたくなるからマジやめて)
–見ていたテング、目が回って気持ち悪くなってきた

–焦るビック
ビックの顔の横に魔女の顔(遡上痕のあるユーリー)が重なるようにスッと入ってきた
寒気が襲う、「ビクッ」と緊張するビック
その直後、真近にいた魔女は霧のようにスッと消えっ

ピタッ!
–ビックの喉に剣があたっている
–寒気はもうひとつの時間軸(剣が首あたっている方)のものだった

–真剣な顔のユーリー
*ユーリー
これがトビヲなら、あなたはもう死んでる

*ビック
(ゴクリ・・・)

*ユーリー
–妙な質問をするユーリー
ねえ、

*ユーリー
もしも、

もし、刻(とき)をいくらでも
遡(さかのぼ)れるとしたら、

どこまで戻って、
何をしたい?

*ビック
?・・・
–(また何をいってやがるといった表情のビック)
この輪っかで遡れるのは、
せいぜい5分から10分てところだろうて。
–輪っかをくるくる指で回しながら言う
–疲れきって草むらにどっかと腰を落とすビック

*ユーリー
それはそうだけど・・・。

も・し・も、の話。

–シュッと、短剣を収めるユーリー。

*テング
ボクなら30秒だって嫌ですね
–テングがビックに同意を求めるような仕草で言う
(ユーリーさんの「もしも」にはついてかないのが吉)
–意味のない質問だとして、一言で交わそうとするテング

*ビック
遡上した”二度目の時間”は、
息苦しい上に、風景も二重に
ぶれて見える・・・
–[ビックの背景に視界がぶれて見えている光景]
正直、遡上しながら闘うのは、
生きた心地がしない・・・。

俺だけか?
–真面目にちゃんと答えようとするビック

*テング
いや、僕もだ。
まったくもって同感。

戻った後も、
暫くフワフワして
現実感がなくなるし、
嫌ですね。

*ユーリー
あら、そう。
(現実感がなくなるフワフワも、悪くないと思うけど)
ふふふ
–(笑顔のユーリーのアップ。遡上痕がうっすらと浮いている、何度も遡上を繰り返して戦った後の後遺症で、少しフワフワしているのか)

*ビック
で、どうすんだ?
あんたは、そんなに、もどって、なにがしたい。
–半ば呆れたようにではあるが、律儀に応答するビック

–(ちょっとだけ、何かを想うユーリーの横顔。少し悲しげな笑みだ、両親の死とか失恋とかでもあったのかなあと、なんかそんな感じ、匂わせ)

–[構図:三人の引いたショット。回想シーンが終わりゆく。遠くで三人がくだらないこと言いながらといったシーン]
*ユーリー
–くるっと両手を広げながら
(兵士じゃなくてー、お嫁さんとか!)
*ビックとテング
(はぁ?)
–呆れる二人

*ユーリー
(こんな男みたいな名前をつけた両親にも文句言わなくちゃ)
スチャッ(剃刀型の薙刀を構えるユーリー)
*ビックとテング
(やれやれ)
(おいおい、泣く子も黙るユーリー様が何言ってんだ?)
(十分男まさりだぜ)
*ユーリー
(なんだとぉ!)
ブン
*ビック
(ひゃあっ!)
(や、やめろぃ)
*ユーリー
(大丈夫、当たっても遡上で治してあげるから)
*テング
(半分しか治らないの僕知ってますよ、わぁっ)

–[回想シーン終わり]
–(輸送機から九区へ降り立ち、遠く離れていく六区と、さらに遠くに起動都市中心部を眺めているビックとテング)
*テング
あの時はーー、

ユーリーさんが、
退役するとか考えなかったなー

*ビック
・・・。
そう、だな。
–着陸していく下を見ている、真面目なビックの横顔
–(テングはさらっと退役と言ったが、退役した後ユーリーは死んだのだ。テングはその現実を普通に受け止めているが、ビックはユーリーの死をまだ乗り越えれていない。)

バサッバサッ
バシュウウウウウウウ
–[降着装置がガスを噴射、輸送機が九区へ着艦した。]

*ビック
–輸送機からタラップを降りながら、横を向いて遠くの風景を見つめるビック
–[ビックの心のセリフ(吹き出しはウニフラッシュ囲みで)ユーリーを想い浮かべながら]
(今なら、分かる気がするよ・・・)
(アンタのいう「やり直し」を考える気持ちってやつ)
–(遥か以前まで遡上して、もしも戻れるなら、盟友であるユーリーを死なせないだろうと。ビックの表情に後悔が滲む。)

–降りてくる兵達、マアムが全員に言い渡す
*マアム
全員、休んでおけ!!
夜明けと共に出撃になる!

第3幕「想い出」

–[回想シーン。ガチギレの夢の中。九区での待機中の寝ている最中の夢のシーンである]

–*ガイアナの母(以降、母)の声
ガイアナ

ガイアナ

*幼いガチギレ(以降、ガイアナ)
母上!
–草原で草花をつんでいる一人の天使の少女、ガチギレの幼い頃、ガイアナだ。
–少女の向こうには、遊牧民のような辺境天使の家が見える、
–優しい笑みの母が、こちらへ声をかけながらくるのが見える。
*母
そろそろ、迎えに行きましょう

*ガイアナ
もうちょっとっ
まって
–一生懸命、花を摘んで何かを作っているガイアナ
これ、父上にー!
–花畑で摘んだ草花でつくったリングを頭上にあげてみせるガイアナ
–父上が持ちかえるお土産と交換です
*母
あら、なあに?

*ガイアナ
わたしの作った天使の輪!
ホンモノの、天使の輪と
交換なの、約束なの!!

母上がもってるのと、同じやつ。
持って帰ってくるって、ゆったの。

*母
あらあら、あの人ほんとに
そんなこと言ったの?
クスクス

–二人は帰ってくる父親を迎えに、出かけるようだ
*ガイアナ
ゆったー

*母
フフフ
天使の輪ねー
そんなにカンタンに
手に入るものじゃないのよ
–母の腰には、天使の輪がかけられている、キラキラ光っている
(これはそんなに良いものでもなくてよ)

*ガイアナ
ゆったもん
父上ゆったのぉ

*母
ハイ、ハイ。

お迎えに行きましょうねー
じゃあ、もし
輪っかなかったら
お仕置きね

*ガイアナ
おしおきー
なかったらお仕置きー

ーーーー
–[飛行船の甲板上]
グオングオングオン
–商船の上、船長の席にある重厚な皮ケースの上に、天使の輪が置かれている。
–キラキラ光っている。
–船長はガイアナの父である、船の名はガイアナ号、船に娘の名前をつけるくらい子煩悩だ。
–一人の船員が目に止めて船長に聞く
*船員A
なんすか?
それ

*船長(ガイアナ父、以下 父)
ああ、
–ガイアナ父ケースの上に置いてある天使の輪を見ながら、嬉しそうに言う
天使の、輪、
だ。

*船員B
ひょえー
守護分隊の連中が使うアレですか?
(実物は初めて見ました)

*船長(父)
いやいや、あんな最新機器じゃないさ、
杜使いから買った骨董品さ、
–地上に係留した船の前で杜使いから皮ケースをもらったことを浮かべながら
–[構図:父の顔のアップの背景に、潮の引いた地上に係留する飛行船と、そこに背高のっぽで長い三角の帽子を被った黒づくめの杜使いが二人、皮ケースを持って船長と商談をしている。周囲の船員たちは気味悪げに距離をとっている。(回想)]
–にっこり
うちのお姫様と、
約束しちゃってね。

–口髭をとればかなりのイケメン(なのになんだこのヒゲは、といった風貌)
–家で待つお姫さま(娘)には、かつてのイケメンもかたなしのようである

–[船員と船長(父)との会話、吹き出しなしで、主に手描き文字風の小さい字(ただし、しっかり読めるようにフォントで)]
*船員A:(時間遡上とかもできるんすかねw)
*船長(父):(そんな物騒なもんじゃないw)
*船員B:(そういや、船長の奥さん、元守護分隊の兵隊さんですもんね)
*船長(父):(まぁ、妻は未だにお守りみたいに持ってるからな、娘が欲しがっちゃって、困ってたんだww)

–(父と船員が気づかない場所で、天使の輪が光っている・・・微振動しながら、まるで何か不吉な何かを呼んでいるかのよう・・・)
ビビビビビビ

–[コマカット手前に船員の後ろ姿]
*船員B
船長ー!!

–[コマカット船員たち]
*船員A
船尾方角に機影!

*船員C
あれは・・、 トビヲ?!

–望遠鏡を覗く船員

*船長(父)
なに!
トビヲだと?!!

貸せ!
–慌てて望遠鏡をとって見ながら
・・・なぜ、こんなところに
–[望遠鏡からのシーン]
–[単眼の望遠鏡、周囲真っ黒真ん中にぼおぉっと巨大な群れ]

なんて大きい・・・
–[飛行船よりも大きいトビヲを中央に、その周りを無数のトビヲが舞っている]


*船長(父)
全員、船を捨てて
退避だ!!
ドカドカドカ
–急ぎ駆け抜けながら、すぐさま全ての船員に退避を促す

–逃げる準備をしながら心配気に下から船員が叫ぶ
*船員D
せ、船長は!!?

*船長(父)
船と積荷を、守りたい
それより一刻も早く、島へ!
皆に知らせて、壕へ避難を!!

–自分のことより、家族や皆のことを心配して、指示を出している

*船員
は、はい!!

ドウドウドウ

–高速離脱艇で逃げる船員たち(形状はイカマシンみたいな感じ、昔なので旧型)

ーーーー
–ガイアナと母が、丘を上ると港が見えてきた
–しかし・・・、
–見渡す光景はいつもと違う、港は不穏な空気で包まれている

*母

–ドカン
–ドドン
–叫び声や怒号が遠くから聞こえる
–!、!!

–遠くに見える港で逃げ惑う人々
*船員
にげろー!トビヲだー!
早く皆に知らせろぉお!!
皆を、早く、壕へ避難させるんだ!

–遠く水平線に真っ黒の雲が、
–雲は瞬く間に広がり迫ってくる
–いや、あれば雲じゃない
*母
雲・・・
ちがう!ト、トビヲ!!

–(天使達の天敵であるトビヲは、凶暴な性質を持った飛翔生物である、彼らは逃げ惑う天使達を好んで喰う。その大きさは、人間ほどから数10メール以上の大型にまで成長し、船ほどになった大きなトビヲの胴体下部には、無数の羽化した幼体がビッシリしがみつき、幼体は母体を喰べながら成長する。)
–(共食いを繰り返し巨大化したトビヲは、近づくものを獲物と見るや、次々に飛翔し襲いかかってくる、彼らの進む先に残る物は何もない。)

ウゥウウウウウウウウウウウ
–今更のようにけたたましくサイレンが鳴り響き出す。

–乗用車ほどの大きさのトビヲが速い速度で港へ突っ込んでくる。
ガガガガ!
ガリガリガリ!! ドーン!
–トビヲは港の艀(はしけ)に激突し、木材を薙ぎ倒しながら、逃げる船員たちを喰らっていく。
バシュシュッ!!
–最初の一匹が頭を喰らい、二匹目が胴体を攫っていく、周囲にはバラバラされた亡骸が舞う。
–後から来た無数の小さいトビヲが更にそれに群がる。
–押し寄せるトビヲの群れは、津波のように港を覆い尽くし、人も物も全て喰らい尽くす勢いだ。
ギャアギャアギャアギャア!!

–その時、父の船がトビヲに襲われながら、かなりの速度で港へ入ってきた。
–バランスを大きく崩し、傾きながら、船は既に半壊状態だ。
ズガガガガッ!
–周囲の樽や貨物を薙ぎ倒し、突っ込んでくる。
–港に乗り上げ、船はかろうじて速度を落とす。

–船のブリッジに夫を見つけた母と娘ガイアナ。
*母
あなた!!

*ガイアナ
父上ー!!!

–父は母娘に気づき、逃げるようにと、全力で叫ぶ。
*船長(父)
逃げろー!逃げるんだー!
ガイアナと壕へ!!

–そこまで叫んだところで、父をトビヲが背後から切り裂いた。

–肩鎖骨から斜めに真っ二つになる勢いで切り裂かれた父は、
–頭の位置がおかしな位置にある。

*母

あなた!

–母は腰に下げていたリングを握りしめた(時間遡上を行なって闘う気だ!)
*ガイアナ

–[ガイアナの眼前に、母が強く握りしめた天使の輪が光る・・・]

ーーーー
–[構図:半ページカットに荒涼した世界。全滅したかに見える島の光景]
–真っ黒な世界、トビヲに全滅された港の全景、
–上空は無数のトビヲ、まるで空襲跡だ。
–これほどに「地獄」という言葉が似合う光景はないだろう。
–周囲には未だ遺体を貪るトビヲが無数に這い回っている。
–[二人の男女の亡骸、その下から這い出てくる少女、ガイアナ]
–ガイアナを守って父と母は死んでいた。
–何度も時間遡上を行なったのだろう、母の身体には無数の遡上痕が、色濃く火傷痕のように痛々しい。
–声にならない声で泣き叫ぶガイアナ
*ガイアナ
父上ー、母上ー

–ガイアナに気づいたトビヲが、怪音を発しながら襲いくる
*トビヲ
キィイイアイアイイイイイイ!!!!!

–ガイアナ絶対絶命
*ガイアナ
ウァァアアアアア

–その時、彼方から一条の光と轟音と共に一人の兵士が
キランッ
ドゥゥゥウウウウンンン!!
–ものすごい勢いで降下してきた兵士がトビヲを薙ぎ倒した、
–守護分隊の精鋭、第九区の兵士、若き日のビックだ。

–しかし、ガイアナの両親は息絶えている、母の方はかつての戦友(ユーリー)だ。
–ビックは急いで駆けつけたのだろう、しかし、遅かった。
*ビック
・・・遅かったか
–トビヲを怪力で討ち倒したビックは、ガイアナの母の方を悲しげに、悔しげに見る。
–どうすることもできない盟友の死に、ただ後悔だ。
–(ビックたちの遡上限界は10分程度だ、この両親はそれ以上前に死んでいる、
– もはや戻ってもどうにもならない)
–しかし、まだ闘いが残っている、周囲はトビヲの渦だ。

–せめて、この子だけでも、そう思って気を取り直すビック。

*ガイアナ
・・・・
–放心状態のガイアナ

–ビックは腕につけたボウガンの矢を一本とり、ガイアナに渡す
*ビック
持っていろ
*ガイアナ
グッ
–グッと握る、握ったら少し落ち着いた

–[トビヲの大軍団にたった独りで立ち向かう戦士]
–今ではうだつの上がらない風体のビックだが、彼の激闘の末に、ガイアナは救われたのだった。

–[回想シーン終わり]
–声が聞こえる
ガっちゃん
ガっちゃん
–ハートの声

–ガチギレ(ガイアナ)眼を覚ます、いつの間にか寝ていた
*ハート
夜明けだって
見に行こう

–ガチギレの頬に一筋の涙が
–悲しい想い出の夢に少し疲れた表情のガチギレ
*ナレーション
<迷いや恐れはトビヲへの誘い、それを知っているガチギレには、今となっては辛い想い出でしかない>

ーーーー
–甲板に出るとビックとテングが、朝焼けをみつめていた
–[甲板上から見える朝焼けが美しい]

–朝焼けを見つめながら、思い出話をしていたらしいビックとテング
–(懐かしい昔の3人(ビック、テング、ユーリー(ガチギレ母))の活躍の話をしていたのだろう)
–ハートに連れられるようにガチギレも甲板へ出てきた

–[九区の甲板上、朝焼けがさしてくる]
–ぼそっとビックが呟く(テングと話していた昔話の続きなのか)
*ビック
戻れるものなら。

*テング
・・・・。

*ハート
ありゃ、
おっさん二人が先約か〜
–空気を読まないハート氏

*テング
なんだ、この
おっさんだと
コノ、コノ、コノ
–ハートとふざけるテング

–甲板へ出てきたガチギレにビックが聞く(大丈夫か、と心配して短く声をかける)
*ビック
準備は

*ガチギレ
・・・できてる

–放送が鳴り響く
*放送
召集ー!
召集ー!

–4人もサイレンの方を仰ぎ見る
–[カットは手前に一人、残り3人を後方に(手前はハートかガチギレにする)]

ウゥゥゥウウウウウウウ
–兵を召集するためのサイレンが鳴り響き続ける、いよいよ開戦だ。

第4幕「決 戦」

–[ブリーフィング]
–決戦直前のミーティング
–ドーム状の第九区のブリッジ、作戦室に多くの兵が集まっている

*マアム
先の戦いで、
六区のガチギ・・・
ガイアナが、

商船を襲った二体の
巨大トビヲ同士を
衝突させることで
撃墜した。

–ハート氏がその後をとって説明する
*ハート
大型のトビヲはその構造と重量から、
激突した際は翼の根本が破損します。

破損した翼では十分な飛翔を維持できず、
海へと落下させることができました。

一度、海へ堕ちたトビヲは二度と翔び立てません。
(大空の猛者も堕ちれば津波に呑まれて死ぬだけです)

*マアム
そこで今回は、
第九区の全ての砲で、
巨大トビヲの弱点へ、
一斉に砲撃を行う。

今回の攻撃は、
”破壊”ではなく、
”墜落”が目的だ。

(巨大トビヲの体表に付着している
 小型のトビヲもろとも
 海の藻屑(もくず)にする)

–ガチギレをちらと見ながら

巨大トビヲが有効射程に入るまで、
無闇な戦闘は控えるように。

(どれほど大きなトビヲでも、
 一度地面へ落としてしまえば、
 二度と飛び立つことはない。)

–兵を温存し、守りを第一に考えた作戦だ。
–背景の図解では、九区がやや下方から翼の付け根へ一斉砲撃を行うことが描かれている。
–九区の砲の可動範囲の制約で、水平より下方だと狙えないため、この位置からの砲撃となることがわかるような図である。

*ガチギレ
ここ(九区)の砲撃は、大型トビヲを破壊できるほどなの?
–ガチギレはそんなにすんなりいくかなと、ハートに聞いている様子

*ハート
そうね、ここの砲門は物凄く大きいから。

九区の砲で破れないものは無いわね。
(しらんけど)

ふふん

–ジブンが砲台そのものであるかのように自慢げなハート氏。相変わらず、尊大な態度だ。周囲の兵は毎度見ている光景なのだろう、クスクス笑っている。

ーーーー
–[九区の外のシーン]
–[長大なライフルのような武器を持った天使たち]
–[テングの部隊が出発しようとしている]

バサッバサッ
–テングが羽を広げながら隊員たちへ命令している。大きい。ビックよりも大きい羽だ。
–(大きな銃を抱えて飛翔する狙撃手は、羽の大きさなど身体能力が極めて要される。
– 長身のバスケットボール選手のようなものだ。テングの部隊の者たちは皆羽が大きい。)
*テング
ポイント到達後は、
ソアリングして待機。

ブワァッバサッ バサッ
–順次巨大な羽を広げる狙撃兵達。全員離陸するのだ。

*テング
サーマルから
外れるなよ!
(いいか、遅れるなっ!!)

–備考:
– ソアリング=旋回して高度を保つこと
– サーマル=上昇気流(ここではそれに乗って上昇するさまを言っている)

–(羽のサイズと生まれの血筋について:天使の世界では翼の大きさを誇るところがあり、血筋を気にする高官などの家系では、翼が大きい者が多い。翼が極小のハート氏は最下層から科学技術と頭の良さで食い込んでいる。)

ーーーー
–ブリッジのレーダーにトビヲの群れが映る
*レーダー兵
トビヲの群れです、

群れの先端が
軌道都市防衛ラインを
突破します。

*マアム
大きいのはまだ
射程に入らないね

*近衛兵
まだだ。

よーく、
引きつけてからだ!

(外縁の工兵は
 足の速い中型トビヲに
 注意を払え!)

–外縁の工兵たちが会話している
*工兵1(新婚)
この九区が突破されたら
軌道内にある都市が
被災することになる
(家族の写真を抱えながら)

*工兵長(爺)
この九区は守りの要だからな
(大丈夫さ)
家族はどこに?

*工兵1
六区です
新しく建った立体長屋で
–嬉しそうに
–写真に写っている立体長屋と家族の写真を見せながら

*工兵2
おお、あそこは
賑やかなところだな

*工兵長(爺)
大丈夫だ。
この要塞は、堕ちやせん。

–外縁の工兵から少し離れて、警戒にあたるビックたち、すでに臨戦体制
*ビック
足の速い中型の突撃に警戒しろ

闘いになったら、
爆雷からは十分距離を保てよ

(爆発反応装甲は、
 要塞を守る代わりに
 周囲に無数の破片を
 撒き散らす、)

(近くに居れば
 我々をも容易に殺傷するぞ。)

–ビックの顔が、いつもより少し指揮官らしい。九区へ来たせいか。
大型トビヲからは、
中型のトビヲが
多数離散して来る。

奴らが九区の装甲を
突き破るのを喰い止めるのが
我々の役目だ。

いいな!

*兵
はっ!!

–ビック達の部隊は雷撃ハンマーで重武装している。
–ハンマーは柄が長く先端に鋭い棘があり、
–敵の体表面に激突させ高電圧の電撃で息の根を止める。

–ビックが盾を全面に両手で構えて固くなっている兵に気付き、攻撃方法を助言する。
*ビック
間違ってもトビヲを正面で受けるなよ、
–盾は片手でいい、という仕草
手持ちの盾なぞ貫かれるぞ。

正面で待って、
交わして、
側面から、ブチ込め!

–正面で構える姿勢から、フンっと、側面へ身体をひる返し素早く雷撃ハンマーをふるう、を兵隊にやってみせる
–兵、理解したようである

もしも、隣の味方が貫かれそうになったら、
即、遡上だっ。

–つづいて遡上での連携を指示するビック
遡上の時間は、
極短時間にとどめろ。

周囲のブレに
気を取られるな!

(ブレて、魂を
 ふっとばされるなよ!)

*兵
は、はいっ!

–時間という盾で仲間を守り合いながらの戦いだ。
–普段のビックは、見た目うだつの上がらないおっさんだか、こうして見ると、頼りになる上官だ。

*兵
中型!
来ます!!

–兵隊たちが振り向いた先に中型のトビオの群れ
–敵の第一派が迫ってくる

–中型トビヲのドアップ
ギュイイイイイイインン!!!

–大きくはないが足の速い特攻が来る!(自爆攻撃にちかい)
ズドドドド〜ン

–[艦内の光景]
–爆発反応装甲へトビヲが激突したのか、爆発音が鳴り響く、館内全体がビリビリと揺れる
–一匹の中型の突撃から戦闘が始まった
–周囲はものすごいデジャブとブラー(周囲の像がブレ出す事象)に包まれだす

–ブリッジでもブラーが起きはじめる
*マアム
・・・はじまったね

–[マアムのセリフに被せて、外で戦っている兵士のシーンをうまく挟んで描く。ビックが指示を出しながら、トビヲを撃破していくなど]

(何度も何度も
 至る所で
 遡上が起きる)

–[戦闘で遡上が行われるシーン]

(敵をかわすため
 死にかけた仲間を救うため
 何度でも、何度でも)

いいかい!
皆、

周囲のブラーに
気をとられるな、

各々の
やるべきことに
集中しろ。

–マアムがブリッジにいる兵達へ檄を飛ばす
しっかり心と身体を
舫いでつなぐんだよ!

(迷っていたら、
 魂を引き裂かれるよ!!)

–[外で中型の突撃に対して戦うビック、
— 砲撃を準備する兵たち、
— 宙返りしながら華麗に戦うガチギレ、などのシーンを挟む]

*レーダー兵
大型トビヲ!
有効射程に入ります!
–照準に巨大なトビヲが映る
–(有効射程とは、命中させることのできる距離)
–(照準がトビヲの向かって右翼付け根にあたっている)
–(位置関係は九区のやや上空遠方にトビヲがいる状態)

*マアム
撃、てェッ!!!!
–マアムが砲撃開始を合図するとともに、轟音を響かせ砲撃が始まる
ズドドドン ズドドン ドドドン ドドドン!
ズドドドン ズドンドドン ドドドンドン ドドン!!

–やや上空へ向けて全ての砲火を開く第九区
–全ての砲撃は大型トビヲの翼右付け根に集中している

ズドドドドドドドドン ズドドドドドドドン!!!

–ものすごい砲撃と煙
–ぐらりと傾く大型トビヲ
*兵
大型1体、

墜落していきます。

*近衛兵
ヨシッ!
–(喜んでいる。あんがいちょろい性格なのか)

*兵
おぉおおお!
ヤッター
ヤッター!
–歓声が響く
–マアムが制するように叫ぶ

*マアム
まだだよ・・・、

砲撃を
緩めるなッ!

–連装砲二基へそれぞれ装填、九区の砲の弾倉はリボルバー型である、
–数十発を装填し発射を始めると、一巡するまで打ちまくることができる。

*兵
装填!
砲弾、準備!

装填完了!

*マアム
ッテェ!!

ズドドドドドドド
ズドドドドドドドン

*兵
続いて2体目、
落下していきます。

*マアム
残りは?!

*兵
残り1体です
墜落していく2体の後方に・・・

大型!!

・・・まるで島だ

–ビック達と戦っていた中型トビヲが突如きびすを返した

ズドドドドド
–[奥から現れた超大型と砲撃の間へ中型トビヲが割り込む]
–中型が群体となって超大型トビヲを守り出した
–砲撃の中を悠然と進む、超大型トビヲ

ズドドドドドン! ズドドドドドドドン!!!

–眼下の超大型のトビヲを確認しながら闘うガチギレ
*ガチギレ
あいつ、効いていないっ!
–砲撃が効いてないことに一番最初に気づいた

–一旦装填した弾を全てを打ち尽くしたのか、九区の砲門が静かになる
–砲撃の煙がゆっくりと晴れるとともに、超大型トビヲが姿を現す

*兵
お、堕ちてない!!
–恐れ慄く兵士たち

*近衛兵
なんて・・・
–(額に汗をかき、その表情には焦りが見え出してきている)

*マアム
くぅ・・・

*兵
装填!
砲弾、準備!

装填完了!

*マアム
ッテェ!!

ズドドドドドドド
ズドドドドドドドン

–九区の砲撃ですら墜とせない

–悠然と進んでくる超巨大トビヲ

–万事窮すか
–予想外の局面に苦虫を噛み潰したようなマアム

–爺の工兵長がマアムに言う
*工兵長(爺)
・・・九区で、突撃しては

*工兵(新婚)
(か、覚悟ならできてます)
–家族だけでも守りたいとの思いで、若い兵も追随する

*近衛兵
な、なにを言うっ!!

突撃など、とんでもない!
(もっと、砲撃を!)

–それには取り合わずにマアム
*マアム
くそぉ・・・

ハート、
一応聞くが・・・

あのでかいのと
この九区の重量比は・・・?

*ハート
おそらく同程度かと

ただ速度がある分、
向こうに分があります

(体当たりだと負けるかと)

–後ろで近衛兵がやめろ、その必要はない、砲撃で仕留められる!みたいなことを言っている

*近衛兵
きゅっ、九区を失うわけには、いかんっ
–つばを飛ばしながら叫ぶ近衛兵

*マアム
・・・アレの都市部への
進入だけは避けたい

–クルっと近衛兵に振り返りながら言う

アンタもそうだろう?

*近衛兵
そ、それはそうだが・・・

*マアム
責任は、
わしが
とる!
–[でかいセリフ文字で]

*マアム
総員、退避用意だ・・・

全員の退艦が完了後、
九区をあの大型へぶっつける

*艦の放送
総員退避準備!

–九区突撃の報が上空で戦闘中のガチギレの耳にも入る
*ガチギレ
突撃?!

あのサイズじゃ
そんなことしても
(なんにもならない)

ビュン!!

–九区へと急降下して向かうガチギレ

飛んでるやつは、

バランスを崩さなきゃっ、ダメだ!!

–速い、他の兵やトビヲの間を縫って、九区のドーム(ブリッジ)へすっ飛んでいく
マアァァァム!!

–タメ口で叫ぶ、勢いのガチギレ

アンカーを!!!!

–ダン!とドーム頭頂部へ着地しざまに叫ぶ
–ものすごい勢いで戻ってきたガチギレの剣幕に驚くマアム

*マアム
あ?!
アンカー?
係留アンカーかい?!

–[相談するマアムやハート、ガチギレたち、彼らが喋る声は観客には戦闘の爆風や轟音で聞こえない、といった感じのコマ]
*ガチギレ
・・・!!!

ズドドドドドン!!
ズドドドドドン!!

–ガチギレが作戦をマアムへ伝える、突拍子もない提案に驚くマアム
–[マアムのアップ、横から砲撃が「どどーん」]
*マアム
そんな、
ことっ!

–工兵長の爺さんがガチギレの提案に応えた
*工兵長(爺)
外周下部に6機、
全部きちんと動きますわい
(滅多に使いわせんが、
 常に整備してますから)
–職業柄、テキパキと返答

*ハート
アンカー強度。4機接地以上なら可能かと。
–計算結果を報告するハート氏

*マアム
–マアム、ガチギレのとんでも作戦を実行すると決めた
よ、よぉしっ
–緊張し汗たらしながら、まったくとんでもないことを言う子だよぉといった顔つきのマアム
–背後に近衛兵、もう緊張して振り切っちゃって、直立不動

ビック、テング、
陣形整えて、仕切り直しだよ

*ハート
現在の九区の低高度と
係留アンカーを利用します!

ガッちゃんのアイディア!!
–ビックたちに向け、ハートがガチギレのアイディアであることを追加して言った

*ビック、テング、兵たち
なんとっ

–皆が面食らう作戦

–横長カット3段
–テングを真ん中に後方にモブ兵達が並ぶカット
–ビックを真ん中に後方にモブ兵達が並ぶカット
*マアム
九区で、
あのトビヲを
釣り上げる!!
–真ん中にマアムのカット、戦いの緊張と興奮が浮かぶ真剣な表情。マアムのセリフの吹き出しを全体にかける

–九区上空のテングの急襲部隊、テングが兵達に手短に指示を出す
*テング
いいか!!
我々で密集している
中型群体を蹴散らす

狙撃隊は後方から
離散する中型を可能な限り
撃ち墜とせ。

あの超大型には構うな。
–的確にやることだけを指示するテング。超大型はガチギレが誘導する手筈なのだろう。

狙撃には、時間遡上弾丸を使う。
(こいつは引き金をひいた瞬間にヒットする)

散発するブラックホールに注意しろ、
呑み込まれたら戻れないぞ!

–テング、緊張で銃口を低く構えていた兵の銃にそっと手を添え
味方を撃つなよ
–笑ってみせる
–テング、チラと眼下後方の九区方向を見ながら
我々が逃した雑魚は、
ビック達が始末する!

–[上空にテングの部隊、仰ぎ見る構図のビックの表情]
*ビック
ハッ、「雑魚」ときたもんだ、
こっちの身にもなってみろ。

『雑魚』ごときに命落とすなよ!

*兵たち
ハイッ!!

–工兵は爆発反応装甲を投棄している
*工兵
(投棄ィー、投棄だー)
(爆発反応装甲投棄ィーーー)
ガコンガコンガコン

*ビック
特攻でしかけてくる中型、小型、
各自持ち場で、必ず喰い止めろ!

*兵
中型!来ます!!

–[口を開けて向かってくる中型。手前に立ち向かう兵士の姿。中型とはいえシャチくらいの大きさがあり、迫力がある。]

–ドドーン
轟音が鳴り響く

–[九区全景、叫び声の吹き出しで]
*ハート氏や兵の大声
九区、超大型トビヲを惹きつけつつ、限界高度まで下降します!

–[ブリッジのマアム]
*マアム
装甲の投棄が済んだら
さっさと退艦しろー
–爆発反応装甲の投棄完了で準備は完了となる、兵へ避難を開始するよう即すマアム
ハート、
コントロールを
こっちへ渡してくれ
–(コントロールを渡す=皆を避難させて自らが操縦するの意)

*工兵長(爺)
全員、ありったけの武器もってボートへ急げー!!

これで終わりじゃぁ、
ないぞお!!
–兵たちがボートへ、大砲やらミサイルやら武器を担いで、ドタバタと走る

–上空から、俯瞰したシーン、ガチギレが超大型の周囲を飛びながら爆雷矢を放っている
ドン!
ドンドン!
ドン!

–[爆雷矢=敵に接触する真近で爆発する矢。ガチギレの使う矢は先端にアタッチメントで武器を付けることができる、この矢は先端に爆雷を装備している。]

*兵
–ボートの兵、ガチギレの方を見ながら
閃光手榴弾・・・

–ガチギレが放つ光に群がるトビヲ
–ガチギレは周囲の小さいトビヲを避けるとき遡上して避けている
–遡上をしながら、上下左右にブレながら超巨大トビヲの前を飛び続けるガチギレ
–怒り狂った超巨大トビヲが、ガチギレを追う
–おびきよせているのだ
–ガチギレ緊張で汗をかいている

*ガチギレ
こっちだよ、

こっち!!

*ハート
–ハートはガチギレの思惑をわかってる
トビヲを誘ってる
–フライフィッシングのルアーがさながらのガチギレの動きに興奮している

*マアム
正面だ・・・、

いまだ!!

–ニヤリと不敵な笑みを浮かべるマアム、額には緊張の汗が

アンカーを投下!!

*工兵長(爺)
アンカー射出っ!
–ロケットアンカーを地上へ向かけてぶっ放す発射音
ドン、ドドン!!

–九区の円盤状の下部装甲はアンカーを兼ねていた、巨大な錘だ
–ものすごい勢いで地上へ向けて発射された
–[九区下からの構図、下部アンカーが展開し発射された、周囲には離脱したボートや、無数の小さいトビヲ、それと戦うビックたち、たくさん飛んでいる]
–[全ての兵が九区から離脱したと分かる絵面にする]

シャーーーーーーー!
–アンカーが地面へ向かう
–アンカーは極太のワイヤーで九区に繋がっている

*工兵長(爺)
アンカー着地します、

衝撃に備えぇ!!

ガラガラガラーーーー
ドン!ドン!ドン!ドン!

–次々にアンカーが地面に突き刺さる
–[九区の目の前に超巨大なトビヲ、その手前にビックたちの部隊とガチギレ、対比でその巨大さが分かるように]

ダン!!
–ガチギレが九区に着地する、ガチギレの像がぶれている。時間遡上中。

–直立で立っているガチギレ

–それを喰らおうと巨大トビヲが突っ込んでくる

–マアムが叫ぶ
*マアム
喰わせてやれぇ!!

–超巨大トビヲが九区の眼前にせまる、ブレたガチギレごと、九区を呑み込もうとする
–ガチギレが消える、残像だ(向こうに遡上して別の場所へ移動しているガチギレが見える)
–超巨大トビヲが九区を咥えた!!

ギィイイイイイイ

–[超大型トビヲに咥えられた九区の上空に、ドローン三機。中型を縫うように飛ぶドローン。あとでこれで脱出したのだなと分かるように描く]
–手前を飛ぶドローンや兵たち、中型トビヲとの対比で、超大型トビヲの巨大さが分かる。
–九区のアンカーワイヤーが張りつめ、更にうなり音を立てる。
ギィイイイイイイイイイイイイ
–超大型トビヲは九区を口にひっかけたまま、体制を崩し旋回をしだしている
グォアアアアアアアン ォン ォン ォン

–それを外から見つめる多くの兵たち
*兵たち
つ、釣り上げた

九区を餌に
トビヲをっ

–バランスを崩し地面へ激突する超大型トビヲ
ズ!!!

ドドドドドドドドドドド!!!!!

–超大型トビヲが横向きに大地へと墜落する
–(大きいため、ゆっくりとした動きにみえる、現代で例えるなら、そう、まるで旅客機が墜落していくような光景だ)
–抵高度でバランスを失い回頭できずに墜落したのだ
バキバキバキ
–大事な羽が折れる
–[地上に落下した超巨大トビヲと口に九区]
–地に着いたトビヲは二度と跳べない

*ビック、テング
–[二人の横側が並んだカット、斜めに真ん中に黒線]
–[天と地から一斉に墜落したトビヲに攻撃を仕掛けるといった感じ。実際には高空と低空だが]
止めを刺せー!!
撃ち尽くせー!!!!

ドドンドンドンドン
ドドンドンドン
ドドンドン

ズズーーン
ズズーーン

–地上に堕ちた愚鈍な怪物を一斉に攻撃するビックたち
–武装して脱出した艇も加わっての交戦
–形勢は完全に逆転した

–それを上空から見ているガチギレ、疲労困憊だ
*ガチギレ
ハア、ハア、ハア
–ものすごい遡上痕だ
–なんとか、勝利を収めることができた
–艦に最後まで残っていた者たちが気に掛かる
マアム、ハート氏・・・

–ひと足先に脱出艇で地表へ逃げていた工兵達
*工兵
工兵長・・・
–泣いている
艦と共になど、
そんな・・・
–(九区がボロボロになって中で死んだと思っている工兵たち)
–そんな悲しむ若い兵の上空から、
–ドローンがひらひらと降りてくる(手前に1羽、後ろに2羽)

–よたよたと着地するドローンたち
パカん!
–口が開いた

–中からマアムが出てきた
*マアム
やあれ、やれ
なんて狭いんだよ

–隣のドローンからはハート氏、工兵長(爺)、近衛兵が出てきた
*ドローン
積載重量オーバーです
–マアムを出したドローンが言う
*ハート
ダイエットした方がいいですね

*マアム
なんと?!
レディに向かって体重のこたぁ言うんじゃあないよ!
–ポカン!とドローンを殴るマアム

*工兵長(爺)
腰ぃ、曲がっちまっただ
あいたたた

*近衛兵
な、なんという窮屈!なんという屈辱だ!!
(は、羽が汚れる)

*ガチギレ、皆
マアム!ハート氏!
工兵長!
–兵たち駆け寄る
–最後まで残っていた者達も全員命は無事、脱出に成功していた

ーーーー
–潮が満ちてきた海に浮かぶ超大型トビヲの死骸と九区の残骸、まるで小さな島のようだ
–(負傷した兵もいるため、全員飛んで帰ったりはせず、他の軌道都市からの助けを待っている)
*兵
ああ!助けがきた
おおーい、ここだー

–第七区からの救護艇がやっときた模様
*第七区の兵
手当が必要な者から収容しろ!

–看護婦天使たち降りていく

*第七区の兵
これは・・・酷い有様だな
あの九区がトビヲに喰われてるぞ

あいつら、どうやって生き延びんだ

–マアム達が冗談を言って笑っている。近衛兵は冗談どころではなさそうだ
*近衛兵
あ、ああ・・・
九区が、要塞が・・・

*マアム
箱物は、また造ればいい。
予算が獲れるぞ!!

バン!
–近衛兵の背中を叩く

–一休みするビックとテング
–ビックは珍しく安堵の表情、頭の上で腕を組んで、壁に寄りかかっている。壁に見えるけど巨大トビヲのヒレかな。
*ビック
こうして地表から見ると、
案外空ってやつは、広いもんだな。
(悪くない)
–その風体はまるで、獲物を仕留めた漁師のようだ

*テング
潮が満ちてくる前には、
帰りたいですがね(笑)
–二人が談笑している背景に上空からいくつも救護艇が降りてくる

*第七区の兵
おーい、無事かー!
やったなー!

–手前にスックと立ち、遠くを見つめるガチギレの姿
–ガチギレはもう次の戦いへ目を向けているようだ

*ナレーション
<ある者は、この世を、
 選択のやり直しの連続だという、>

<何かを手にするということは、
 何かを手放すことであると。>

<そして、決して手放しては
 いけないものがあるのも、
 また、この世である。>

-大空の侵略者-
-終-