漫画、天使のわすれもの『大空の侵略者』のネーム(シナリオ)です。ネームのためセリフと状況説明のみです。小説ではありません。基本的に実際のシーンで描かれる描写のみを記載しています。
ペン入れ前にはネーム(私の最終ネームはほぼ下描きなのでアレですが)を公開する予定です。(このブログで制作過程をできる限り公開していきます。)
※ここでは推敲をしています。この原稿は第二校で修正途中のものになります。初校はこちらです 。
表記ルール
- “ナレーション”は、漫画の四角囲みに入るセリフ
- 「 」は、ふきだしの中に入るセリフ。「 」内の( )は”ルビ”ふりがな
- 『 』は主に効果音。漫画では絵になる部分
- 冒頭に三文字分の空白のある行は”ト書き文”。主に状況を説明する文章で、漫画では絵やコマ展開で表現されるもの。漫画では文章では書かない(書いても欄外)。
- ( )は補足事項、メモ
- 設定資料はこちら→
目次
第1幕「大空」
[襲来]
ナレーション「遥か遠い時代、
人は天使であった」
「天空を我が家とし、
闇を避け、光を
求めていた」
翼を広げ大空をかなりのスピードで飛翔する天使。
その背後に、巨大な羽を持つ魚のような怪物が迫る。
その大きさ 20メートル以上、小型船舶ほどある
巨大な怪物は大きく口を開き、ぞろりと悍ましく歯を剥き出し、唾液のような液体を飛び散らせながら、猛スピードで飛翔してくる
怪物から逃げる天使は、強力な弓で武装しており、蛇行し回避しながら、怪物へ攻撃を繰り返している。
天使の名はガイアナ(通称『ガチギレ』)
天使は焦りながら言った
ガチギレ「どうして、こんなッ
都市(まち)近くでトビヲがっ!」
目深に被ったフードの切れ目から少女の鋭い目がのぞく。
肩や顔、腕にある無数の生傷が、激しい闘いであることを物語っている。
彼女は襲いくる巨大な羽を持つ怪物を『トビヲ』と呼んだ。その名の由来は、巨大な尾鰭が大空を舞う姿から”翔ぶ尾”がトビヲに転じたとも、また”飛ぶ憎悪(トブゾウヲ)”からトビヲと呼ばれるようになったとも謂れる。彼等は闇からやってくる
トビヲの巨体の表面に、無数の異形の者たちが這い回っている
異形の者たちはトビヲの幼体で、彼等の大きさや姿はどことなく人にも似ているが、背には虫の羽のようなものが複数枚あり、足の間接は反対に曲がっている。不気味で気持ちの悪い容姿をしている
彼等は羽化直後から、母体の体表面に集団でビッシリと貼り付き、その肉を喰らって育つ。虚無をみつめる六つの目は、そこ映るものは仲間であろうと喰らい尽くす、共食いの種族であり、それが彼等の生存戦略だ。顔の横まで裂けた口からは、乱杭歯をゾロリと覗かせ、歯からは常に親や兄弟の血肉を垂れているのだ。その姿、性質は、まさに悪魔そのものである
血肉の破片が飛沫として舞い散り、腐敗した臭気が周囲に立ち込める光景は、”地獄”とはこういうものか、と見るものを震え上がらせる
トビヲの幼体達は、隙あらば天使を喰らおうと飛びかかってくる。
幼体といえどもその大きさは、天使の少女と同じくらいはある
天使の少女は、素早くそして鋭く回避行動をとりながら、巨大トビヲの羽の付け根へ矢を放ち続けている。その飛び方は、鳥というより龍を彷彿とさせるしなやかさだ。矢の先端は、放射状に突起が開いた筋肉を粉砕しダメージを与えることに特化した鏃が装着されている、この攻撃は狩猟の類ではなく、怪物の動きを止めるため一点に絞られている
ガチギレ「くそっ!堕ちろ!!」
幾度も放つ矢、何本もの矢をくらいながらも、巨大トビヲはそのスピードを緩めない。
そこから飛び立つ幼体は飛翔力が弱いため、飛びかかっては堕ち、気流に乗って上がっては散っていく。まるでウンカのように彼女の視界を遮る
ガチギレ「くっ・・・、こいつら!」
「数が多すぎるッ」
飛びかかってくる幼体に、憤るガチギレ
腰の後から出した小刀で幼体を切り裂きながら、なおもトビヲたちの隙間を縫う様に飛び続ける
雲に入り、視界が悪くなった。
トビヲの鳴き声が周囲に響わたりだす
『グォオオオアアアアアォン』
『ギィギィ、ギャアギャアギャア』
鳴き声とも歯軋りともつかない轟音と怒号、異形の者たちの叫び声が周囲を圧倒する。
その時、轟音の奥から囁きのように不気味な声が聞こえてきた
トビヲ「テン・・・シ・・」
「クウ・・・テン・・シ・・・」
くぐもった空恐ろしい声だ。それが思考に働きかけてくるものなのか、それとも恐怖がそう聞こえさせるのか
幼体たち「ギャアギャアギャア」
トビヲ「テン・・・シ・・クウ」
「・・・天使・・・喰う・・」
襲いくるトビヲたちを、必死に振り払うガチギレ。
トビヲの側が優勢だ
ガチギレ「クッ!!」
フッと雲を抜けた。
眼下に飛行船が見える
ガチギレ「!!」
先ほどの大きなトビヲの他に、もう1匹が現れる。
2匹の巨大なトビヲは、今にも船に追いつこうとしている。
船の大きさはトビヲとほぼ同じサイズだ、襲われればひとたまりもない
ガチギレ「あの船・・・ッ」
(トビヲたちは飛行船を追っていた)
船は船体を傾け蛇行しながら回避行動をとっているが、到底逃げきれそうにない
焦るガチギレ。
矢はほとんど撃ち尽くしている
ガチギレ「ま、間に合わないっ !」
(見開き構図:中央に襲われている船、左上部は奥にいるトビヲ、右下部に手前のトビヲ)
船を挟むように大きなトビヲが2体
船の音『グォオオオオオン』
『オン オン オン オン』
トビヲ幼体「ギャアギャアギャア」
「ギィギィ」
「ギチギチギチ」
一匹が船の中央部分を食い破った。
商船の荷室から貨物が空中に散乱する
引き裂かれた船の間を飛ぶガチギレ、何かを探し回るかのように船を貪るように喰い散らかすトビヲたち。
怪物たちの群れは、全体がひとつの生き物のように、黒い螺旋となって船を呑み込んでいく。
周囲に残骸が舞い散る
トビヲ「テン・・・シ・・クウ・・・テン・・」
『ギチギチ
ギャアギャアギャア
ギィギィ』
歯軋りとも鳴き声ともつかない怪音
『スッ!』
襲われ続ける中で、ガチギレが頭上のリングに手を添えた
ガチギレ「遡上(そじょう)!!」
微塵に粉砕される飛行船の隙間を飛びながら、呪術師のように叫んだガチギレ
ナレーション「”遡上”とは、大空を守る守護天使が、刻(とき)を遡るときに発する呪文だ」
「彼らは少しだけ時間(とき)を、遡って対処することができるのだ」
頭上の天使のリングが輝きを増し周囲をつつみ込む。
真っ逆さまに飛び続けるガチギレは、閃光となり流れ星のように、消えた
『フッ!』
[商船]
ナレーション「一刻前(いっこくまえ)ー、」
先ほどのシーンで粉砕墜落させられた船が、未だノンビリと飛んでいる。
(先ほどのシーンの、少し前の時間だ)
船のデッキ(甲板)で堅いの良い男がロッキングチェアに揺られながら顎髭を撫でている。
この商船の船長だ
商いで豪華な物を扱っているのだろう、デッキ周辺は高価な調度品や珍品で溢れかえっている。船長の足元には珍しい大きなゾウガメまでがいる。空飛ぶ船にオウムではなく、飛べない亀が不思議な空気を醸し出している。亀は肉が美味いと噂で、美食の港で食肉用(カルパッチョ用)として仕入れたのだが、船長が情が湧いてしまい、今ではペットとして、もう長いことこの船に住んでいる。ちなみに亀の名前は調達した時と変わらずで『カルパッチョ』である。
この船長、なかなかの趣味人なのだろう、洒落た紋様のマントや衣服に、綺麗な貴金属が沢山ぶら下げられており、その風体はどこか、商船の船長というより海賊のようだ。名はバルザックといい、船の名前にも自らの名前をつけている。この船は商船『バルザーク号』だ
船長「フフ、フフフ」
「刻(とき)は金なり・・・」
テーブルに並ぶ高級な酒瓶たちを眺めニヤついた笑みをみせる船長。
その手には、とても高価そうなグラスが握られている。
グラスには高級な酒がなみなみと揺れている
グラスは上部が透き通ったクリスタルで、縁に金色の輪があしらわれている。下部には蔦が絡みつくような紋様の銀食器のような風体をしており、綺麗ではあるがどこか不気味な雰囲気が漂っている。先ほどから上部の縁の金色の輪の部分が、誘うようにヌメヌメとキラキラ光っている
船長はそれを指で撫でる
音『キューッ キューッ ・・・』
金色の輪の縁に沿って撫でると、華奢で綺麗な高音が鳴る
船長「ゴクンッ!」
グラスに入った高級な酒を、惜しげもなく一気に飲み干した
船長「クゥー!フゥウウウ・・」
よほど美味い高価な酒なのだろう、
感動で小刻みに肩を振るわせている。
顔は興奮し上気している、とても満足気な表情だ
(構図:顔は影、逆光っぽく。不気味に。)
足元のゾウガメは退屈そうに、のっそりのっそりと船長から歩み去っていく。
もうずいぶんと長くこの船にいるのだといった雰囲気の亀だ、安定感のある雰囲気でゆっくり歩み去る
船長がグラスの縁にあるリングを撫でる
音『キューッ キューッ ・・・』
そして呪文のような言葉を呟いた
船長「遡上(そじょう)」
ススススッ
グラスを持つ光景がブレだす。
グラスが二重に見える光景、残像の様な光景が広がる
グラスの蔦の紋様が動いて見える、まるで魔法のグラスだ。
周囲のブレが止まると、グラスには再び酒が満たされている
ゾウガメも船長の足元にもどっている
船長がニヤついた笑みをみせている。
(構図:船長のさらに不気味なアップ。横長コマで、船長の顔をセンターに、逆光で。)
目の下に隈のような痣がうっすらと浮きできている、グラスの魔法のような力のせいか
船長「フフフ、フフフフフ」
船長はとても満足げだ。
まるでこの世の全てを手に入れたかのようだ
それに気づいた一人の船員が寄ってくる
船員A「なんなんすか、嬉しそうですねぇ」
船長とは長い付き合いなのだろう、出っ歯で吊り目の船員が慣れなしく話しかける。
船長がニヤついている理由が知りたくてたまらないといった感じで、細い吊り目を更に細くさせている。「何か得になることはないか」いっつもそんなことを考えているタイプの船員A だ
少し酔って上気させた顔の船長が、めんどくさそうに言う
船長「おまえの、その質問な」
「4度目なんだ」
船員A「?」
「へ? あ、あっしは、
い、今、聞いたばかりですぜ?」
グラスを眺め、うっとりとした表情になりながら船長
船長「フッ・・・」
妖艶なグラスに、船長の顔が映っている。
船長「これだ、これよ!」
『クスッ』
船長は嬉しそうに船員Aの背中を叩いた
『バン』
グラスを掲げながら、船員に見せつけるでもなく、話始める
船長「さっきの港で手に入れた・・・」
(構図:手前に船長。背景に回想シーン)
[回想シーン]
先の港での光景。
得たいの知れない相手から革ケースを手渡される船長、相手は長身で黒づくめの2人だ。
とんがり帽子をかぶっている
船長「世にも珍しい、
『やり直しのグラス』だ」
手に持っている唐草の紋様の入った高価なグラスは、
先ほど飲み干したはずの ”飲む前の酒” で満たされている
『ゴクン!!』
また、飲み干した。
船長「呑みすぎたなーっと、後悔したとする」
相変わらず船長は、船員にはおかまいなしといったふうで、独り言のように勝手に喋る
船長「そんなとき、リングをこう、キューっと擦(こす)りながら」
『キューッ』
グラスの淵を擦る
船長「遡上!
と、囁くんだ」
船長からは船員や周囲がブレて見え始める。
(構図:船長目線、船員たちがブレて見えている)
『ブブブブ、ブブンッ!』
(構図:船員目線、船長がブレて見えている)
『スススス』
再び酒が戻る
船長「ほ!ほら!!」
「酒が!」
グラスを見せる。
先ほどからの目の下の隈のような痣は一段と大きく濃くなり、紋様になってきている
船長「酒がもと通りだ!!」
船長は嬉しそうに叫ぶ。
たしかに、飲み干したはずのグラスに酒がもどっている。
船員A「なんなんすか、嬉しそうに」
船員A が質問をしに寄ってくる(先ほどの時間へ遡っている)
船長「おまえ、
その質問五度目ッ!!」
船員A「?」
船長「ガハハハハ!!」
船長が船員A の背中を叩いた。
『バン』
亀が足元からのっそりのっそりと歩み去っていく。
船長の頭の悪さ丸出しといったバカ笑いに、積荷を点検してまわっていた丸メガネをかけた船員Bが、気づいて加わってきた。
時間遡上グラスについて談義をしている船員たち
船員B「へえー、すごいっすね」
「つまり、酒が飲み放題?」
船長「そうよっ!」
船員B「・・・ふぅむ」
船員B、興味深々にグラスに見入る。
丸メガネの船員B は、船員A よりは少しは頭がまわるとみえて、『やり直しのグラス』(遡上グラス)の仕組みを考えている面持だ
その横で船長と同じであまり頭の良さそうではない船員A が、考えをいちいち声に出しながら、まとめている
船員A「”遡上!”と唱えると、刻(とき)が戻る」
「うん。」
「呑んだら、また”遡上”と唱えれば」
「また刻(とき)が戻る。」
「と、いうことは・・・」
「おお!」「永遠に、高級な酒が呑める!!」
自分が得できることを想定したら、実感が湧いてきた船員A。
そのバカっぽさを見て船長少し冷静になる
船長「・・・」
「まぁ、ただな。」
「遡上と唱えたら、呑む前に戻るだろ。
暫くすると、飲んだ記憶も、
な〜んとなくな、薄くなってな」
「・・・あるにはあるんだけど」
船員A「え?」
船長、一服置いて真剣な顔で言う
船長「後になってみると、
呑んだときの味とかも・・・」
船員AとB「・・・・」
(構図:船長のアップの顔を真ん中に、左右に興味深々のふたりの船員の顔のアップ)
船長「まぁ ”遡上” と唱えて時感を数秒だが遡った俺はよ、
今度はこの高い酒を呑まなかったわけだ」
グラスの酒をくるくるしながら
船長「酒は”呑まれなかった”ことになったわけで」
「しばらくしたら、
あれ?呑んでないんじゃねって
なってくるんだな、これが。」
船員Aを見ながら
船長「おまえに俺、説明したの何回目だ?」
船員A「え?初めてですよ。」
船長「ほんっとうに、そうか?」
船員A「え・・・・あれ・・・?」
船員の視界がブレてぼやける
『ブブブブブブ』
船員A「あれれ」
「そうえばさっき船長に「それ二度目だ」って言われた気が・・・、
「おまえ五度目だぞ」って言われた気も、
あれ?どっちだっけ・・・」
船長「だろー?」
船員A「あ、あれェ・・・?!」
「お、おかしいな、
さっきまでは初めてだと
思っていたのに・・・」
記憶の混濁に焦り出す船員A
船長「俺は、呑んだ自分と呑まなかった自分が」
「おまえは、聞いてなかった自分と
聞いてた自分が両方いるみたいだろ?」
「酒は、飲まれていて、飲まれていない、
不思議な液体になってる気も・・・」
グラスの酒は半透化でややブレている
この不思議な現象に、思考がついていかない船員A が頭に手を当てながら
船員A「う・・・」
「な、なんか気持ち悪くなってきた(船酔いしそう)」
具合が悪くなってきたようである。
目の下に船長と同じように隈が浮き出てきている
船員A「さっきからの記憶があやふやで、
頭がおかしくなりそうだ・・・」
頭の回る船員B が、理解したとばかりに手を叩いた。
『ポンッ』
船員B「はは〜。」
「船長が “遡上” と唱えて
グラスを擦ったところまで、
時間が経過したところで、」
「”呑んだ” 時間と
”呑まなかった” 時間が
混ざったんですね」
考え疲れて眠い目の船長と船員Aは、だるそうに船員Bを見つめている。
船員B「喋ってた記憶も混ざってるようだから」「ニーチェさん、記憶もぐっちゃぐっちゃになってるんですね」
船員Aの名前はニーチェというらしい、悪い頭に似つかわしくない洒落た名前だ。
船長「うーん・・・」
船員A「び、微妙なグラスっすね」
“なんか、想像していたのと違う” と納得できない表情の船長と船員Aのふたり、
“得できる!” と一瞬は思ったのに、今はもうガッカリ感が時と共に増してきている。
船員B「僕はおふたりの遡上の間も気づかず、荷物を見てまわってたから違和感がないんすね」
「・・・ブツブツ」
「・・・つまり、僕は二度同じことをしているように見えていたのか。
いや船長たちからしたら五度目か。」
「遡る前と、その後の事象が混ざる具合は・・・」
「帰結する現実は如何なるものか・・・ってとこすね、なんと、これは興味深い」
頭の良さそうな船員Bは、嬉しそうにまとめていく。
もっと珍しいグラスを良く見ようと、メガネに手をあてながら興味深々だ
グラスはまだ微妙に振動している。
見る者を誘うように縁が光る
『ブブブブブ・・・』
船長「時間遡上って・・・、『やり直しのグラス』って・・・、そういうことなのか。」
船員B の言ったことが、なんとなくは分かったのか船長が、肩を落とす
船員A「知らないで買ったんですか?」
船長「う、うるせえなっ!!」
お調子者の船員A に呆れ顔をされ、不満気味の船長が怒鳴った
船員A「「あ、この一杯を呑みすぎた!」って
いう時に使うって感じすかね・・・」
「なんか、もうマジ、微妙っすね」
そもそも金を払ったわけでもない船員A まで、おもいっきりガッカリモードに入っている
船長「うーん、なんかこう。
嬉しさも、”半分”になってきちゃったなぁ」
船員B「ところで、そのグラスのパワーというか。
どのくらい遡れるんですかね?時間」
もうつまんなくなってきて何でそんなこと聞くんだよと言う顔をした船長と船員A。
船長が答える
船長「す、数秒か・・・」「数分かな・・・」
船員A「ま! ますます、微妙っすね!!」
想像よりもチープだと船員A が呆れて素っ頓狂な声を出した。
船員にバカにされ一瞬はムッとして睨み返したものの、
遡上グラスをうつろに見つめながら、更に更に肩を落としていく船長。
虚しくグラスの縁をこすり「遡上」と言いかけた時、
遠くの空に光る何かが目に飛び込んできた
『キランッ』
船長「・・・ん?」
彼方に光った何かに船員たちも気づいた
船長A「・・・なんだ?!」
船員B「鳥・・・ですかね?」
光はみるみる間に近づいてくる。
ものすごいスピードで接近してくる天使
『ギュイーーン』
天使の輪や装備を輝かせながら、ガチギレが急降下してくる
『ダーンッ!!』
甲板デッキに激突するように着地したガチギレ
船が衝撃で揺れ、高価な調度品がバラバラと床に落ちる
船員たち「うわーっ!!」「ヒィっ!」
『ガラガラガラ』
『コロコロコロ』
船長の足元の床に ”やり直しのグラス” がコロコロと転がる
グラスは怪しい妖気を漂わせている。
(中途半端に起動している状態のグラスが微妙に振動しブレ続けている)
亀は相変わらず、その場からノタノタと歩み去っていく
船長「な、なんだ貴様!!」
突然の来訪者に気色ばむ船長と船員たち
険しい形相で仁王立ちのガチギレ。
ビビる船員達
彼女の顔には先ほどの攻防での傷や汗、そして遡上の痣がうっすらと見える
ガチギレの腕に一際輝く金色の腕章を目に留めた船員が言う
船員A「しゅ、守護天使・・・!?」
船長の横にいた船員が進言する
船員B「・・・あの腕章、守護分隊です。六区の奴かと」
『シュウシュウシュウ』
ガチギレの全身からは湯気のようなものが立ち上っている、
弓に巻きついている小さな龍が、船員たちへ怒りの感情を向けている
龍「シャアアアアア」
船長「守護分隊が、な、何のようだ!積荷の検疫ならさっきの港で」
ガチギレ「すぐに船を捨てろ!
この船は堕とされたッ」
「命が惜しければ、直ちに下船退避しろ!」
(台詞の『堕とされた』の文字列の一文字づつに『・』の強調ルビ)
取り合うつもりはないとばかりに、強い口調で言い放つガチギレ
ガチギレ「お前たちは死にかけた」
「これは二度目だ!」
龍がつけ加えるように言う
龍「ラッキーだったな。
再臨と思え」
『シュウシュウシュウ』
憤るガチギレの顔から全身にかけて、痣のようなものが浮かんでいることに船員Bが気付き怖気付く
船員B「そ、遡上痕・・・」
ナレーション「遡上痕とは、時間遡上を繰り返した際に浮き出る外傷である。」
「重度となれば生命に危険を及ぼすこととなる。
それは、今ここに、刻(とき)を遡るに値する何か
があったことを物語る」
周囲の光景がブレだす
『ブブブブブブブブブ』
龍「刻(とき)が混じわり始めた・・・」
事象の統合が始まった周囲を見渡すガチギレ
船員B「トビヲに襲われて墜落したらしい時間軸と・・・」
船員Bが一生懸命に状況を理解しようと考えている
船員B「・・・今、私たちが「逃げろ」と言われている時間軸、」
その異なるふたつの時間軸の光景がブレて重なってくる
船員B「それらが重なると・・・」
尋常な事ではないことだけは理解した船長、顔に脂汗を滲ませ、
鼻の穴を大きく膨らませ、興奮とも緊張ともつかない表情。
船長、決断して叫ぶ
船長「全員、退避しろーッ!」
船員Aは、頭をかかえながら、一目散にバタバタと逃げる準備をしだす。
他の船員たちも「退避、退避」と叫びながら逃げ出す準備をする
ガチギレの弓に居る龍がそれを眺めながら、ボソリ呟く
龍「恐怖と混乱は、自分たちで乗り越えろ」
愚かでもあり可笑しくもある生き物だと、船員たちのことを嘲笑っている、そんな表情だ。
ガチギレはトビヲの来る方角をキッと睨みつけている
『ダンッ!!』
飛行船から、勢いよく飛び立つガチギレ
迫りくる巨大なトビヲ2体の方へ、ものすごいスピードで向かう
ブレ続ける風景。
別の時間軸での墜落していく商船とそれを襲うトビヲが重なり出す
船員A「ひ、ひぃいいい!!」
船員B「あ、頭、喰われかかった記憶がっ・・・」
「さっき喰われかかったのかっ」
船長「か、考えるなっ!」
「今、目の前のことだけに」「集中しろっ!!」
冷や汗を垂らしながらゲキを飛ばす船長。
どんな時でも何をすればいいのかだけは、常に掴んできたようだ。
この船員たちのリーダーを長くやってきたのだろう、そんな振る舞いだ
[撃墜]
『ギュイイイイイン!』
ガチギレが2体の大トビヲの真っ只中へ突撃していく
ガチギレの目に映る周囲の風景も、時間統合により重なってきているはずだが、彼女の動作には微塵のブレもない
彼女の顔から身体全体に遡上痕が浮き上がる。
ふたつの時間軸で異なる場所にいる彼女の肉体に、切り裂かれるような痛みが走る。骨は軋み、遡上痕に沿って血が滲む。が、彼女は気にしない。物凄い集中力だ。その鋭い眼光は目標物だけを追っている
『ビシュッ!!』
『バシュッ!』
矢を1発、2発。
2匹の大トビヲの目玉のひとつづつへ矢を放った。
彼らの気ひく作戦だ。
自らを囮に、船からトビヲを少し引き離した。
怒った大きなトビヲ2体が螺旋を描くように高速でガチギレを追い回す
華麗に宙返りでそれらを交わすガチギレ。
船員たちが退艦する時間を稼ぎながら、片手で擲弾のようなものを素早く矢の先端にねじ込んでゆく
『クリック』
『クリック』
商船から救命ボート(ミニ飛行ボート)に乗って離脱しながら船員達が、緊張の面持ちで戦闘の行方を見守っている
船員たち「あいつ・・・」
(構図:遡上痕だらけのガチギレ正面からのアップ。弓には龍が絡みついている、龍も目標をしっかりと補足中)
龍が言う
龍「・・・あのデッキのなにかだ」
(台詞中の『なにか』に一文字づつ『・』の強調のルビ)
ガチギレ『コク・・・』
ガチギレが軽くうなずく、
龍が言わんとすることがわかっている様子だ。
息を吸い込み船のデッキに照準を合わせる
身体を捻り華麗に攻撃をかわしながら、
矢をトビヲとは反対の方向へかまえたガチギレ
(構図:中央に美しく宙返りをする守護天使。ガチギレがこちらへ矢をむけている、その向こうにこちらへ恐ろしい顔を向ける大トビヲ)
その動作に何か気づいた船員が言う
船員たち「あいつ・・・、
俺たちの船をっ!」
『バシュッ!!』
ガチギレが擲弾付きの矢を放った。
矢が船の方へ、大きな風切り音立てながら向かう
『ギュイーン!』
それに反応するかのように、弾かれたように矢の向う先へ向かう大トビヲ
『ドカッ!!』
矢は船に炸裂し、デッキ付近が大きく吹き飛んだ
船員たち「う、打ちやがった!」「俺たちの船をっ?!」「な、何しやがるっ!!」
『ドドーン!!』
爆砕する船
トビヲ「!」
また、”なにか” に反応するトビヲ
散り散りバラバラに散乱する高価な品々
(構図:落下物を下から上へ見上げるようなカット。手前に落ちてくる『やり直しのグラス』、グラスはまだブレ続けている。周りに高価な酒瓶や調度品や宝石などの品々。その向こうに吹き飛ばされた船。周囲には積荷が舞っている。右上あたりに小さくガチギレとトビヲ。左側に逃げ出した船員たちのボートが小さく見える)
龍「あそこだ!」
(構図:龍目線)
中央が大きく見える鷹のような目で見た光景。
散乱する落下物の中に、キラキラ光る物体が見えている
ガチギレ「光ってる」
「あれは・・・
なに?」
目をこらすとグラスのようなものがキラキラ光っている(”やり直しのグラス” だ)
龍「海へ!
墜とせッ」
考えることなど無駄だというように、決然と言い放つ龍
ガチギレ、くるりんと弓を構える
龍「風速四っつ、
右からだ!」
龍が目標までの風流を読みガチギレにアドバイスする
(構図:中央に光る物体、少し右に鏃の先。右よりに上方へ照準を合わせている様子)
『ビシュッ!!!』
ガチギレがタイミングを測りつつ矢を放った
(構図:擲弾付き鏃が手前、向こうにガチギレ。周囲に集中線)
『ドッーン!』
キラリ光った物体の少し上方で擲弾が炸裂した。
光る物体は爆風で下方へ更に吹き飛んでいく。
“それ” を追って狂ったように、爆炎の中へ飛び込んでいくトビヲ
なおも擲弾付きの矢を放つガチギレ
『ドン!』
『ドン!』
『ドン!』
爆炎が縦に並ぶ
“それ” を追いかけるように、物凄いスピードで降下していくトビヲ2体
2体のトビヲは螺旋を描きながら、爆炎を追いかけ落下していく
『ギャアアアオアオオオオオオアッ!!』
海面が近づいてくる
海へ大きな飛沫を上げて突入するトビヲ
『ドッババーン!!』
まるで海で大きな爆弾でも弾けたのかというような、巨大な水柱が上がる
『ゴボッ・・』
『ゴボゴボゴボゴボ』
『ギャアギャアギャアギャア』
巨体の羽は海面への衝突で砕け折れ曲がり、衝撃で身体の一部も折れている。
再度飛び立つことはできず、体表についている幼体もろとも海へ沈んでいく。
溺れながら沈んでいく2匹の大きいトビヲ。
トビヲから飛び出してきていた幼体は飛ぶ力が弱いのだろう、満足に飛び続けることができず、奇怪な叫び声を上げながら、しばらくバタバタと飛び回ったのち海面へ墜落し、そして溺れ沈んでいく
船員たち「・・・」
この顛末を、ただ茫然と眺める船員たち。
怖いことが苦手な船員Aはしょんべんちびりそうな表情
ガチギレと龍は、なんとかトビヲが都市へ到達するという惨劇を回避はした。
(船は破壊してしまったが)
安堵で疲れが出てきた
ガチギレ「ふぅ」
龍「まずまずだ」
遥か遠くから、十数名の天使達が駆けつけてくるのが見える。
ガチギレの仲間達、第六区守護分隊の兵士達だ
兵士A「な、なんだぁ」
「こりゃぁ・・・」
海面にはバラバラに粉砕された船の残骸、沈みゆく巨大なトビヲ。その周囲にはウンカのごとく幼体が暴れ堕ち、溺れ沈んでいく。
兵士のひとりが、眼下に沈みつつある大トビヲの骸を見つめ、冷や汗を垂らす。
初めて見る巨大トビヲ墜落の光景に驚く兵士たち。
兵士B「な、なんて、
光景だ」
兵士C「大きい・・・」
兵士D「こんなものが、
この空域に・・・」
他の兵士よりも一回り大きい兵士があとからやってきた。
上官らしい、困ったなという表情で頭を掻いている
ビック「まーた、派手にやったな」
第六区守護分隊のリーダー、ビックだ。
巨大トビヲには慣れているのだろう、さほど驚きもせず、むしろバラバラになって落下した飛行船の残骸を眺めながら、事態の収集にかなりのコストがかかりそうだと困惑している様子だ。
ビック「・・・、まいったな」
このリーダーにもまた上官がおり、
きっとこの有様は叱責をくらうことになるのだろう。
そんなことを懸念している表情だ。
雲間が晴れてきた。
彼方に空に浮かぶ巨大な島が姿を現す。
天使たちの住処のひとつ軌道都市第六区、通称エデンだ。
島の周囲には、ちらほらと商船(飛行船)が行き交っているのが見える。
トビヲに襲われなければ、この船もああやって港に入港していたのだろう
ビック「オレは「待て」と言ったろう!
どうして、おまえらはいつもッ」
飼い犬に待てと言うように言うのが心外だというようにガチギレと龍は刃向かう
ガチギレと龍「だいたい!」
「いつも!」
「遅いから!!」
龍「人命の救済は急務だろう」
ガチギレと龍はビックに叱責されるも素直に聞く様子は皆無。
他の兵士達は、せっせと墜落した船の残骸の回収や、船員達の救護に精を出している。
(構図:引きのショットで。眼下には海の藻屑となったトビヲの群れ。上空には船員たちの救命ボート。パラパラと堕ちてくる飛行船の残骸。ガチギレたち。)
『ザザーン、ザッパーン』
ビック「ムッカーっつくな、お前達!」
海の音が、墜落したトビヲも、彼らの声も、かき消していく
第2幕「港」
ガチギレ「だからー!」
「遅いからだって
ゆったじゃん!」
ビック「ムカッ!」
龍「おそーい、いつもおそーい」
第六区エデンの港に不時着させた救命艇の周りで守護分隊が作業中。
周囲には、救助された船員と、引き上げられた船の残骸が置かれている。
ビックとガチギレたちの喧嘩は続行中。いや、ビックは命令と安全な作戦行動について諭しているのだろう、だが相手が悪すぎる。まぁ、ぶっちゃけ、相性が悪いのだ。外野のやんややんやと相まって、腕っぷしでの勝負が始まりそうな雰囲気である。彼等のいつもの流れだ。
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