[漫画]「ガチギレ天使さん」ネーム(シナリオ)

ジャンル:SFファンタジー
タイトル:ガチギレ天使さん
あらすじ:今から遥か遠い時代、人は自らを天使と称し空に住んでいた。天使たちは”トビヲ”と呼ばれる謎の怪物達から、度々侵略を受けていた。幼い頃、それに両親を殺された天使ガイアナは、それと闘う。

上記はラフや設定画です(原寸画像へのリンクはページ末にあります
『大空の侵略者編』 のビギニング(Beginning)的な話になります。ガチギレの世界観、背景やキャラクターの位置付けを明確にしたいと思って、いったん『大空の〜』より先にこちらを描いてます。


表記ルール

  • ○…場面
  • ナレーション…漫画で四角囲みになる文
  • 名前「 」…ふきだしのセリフ、*手書きセリフ とあるのは、ふきだしにいれるまでもないサブ的なセリフ
  • 名前()…しゃべらず思っているセリフ
  • 効果音『 』… 効果音(漫画で描き文字となる部分)
  • 冒頭インデント行は”ト書き文”。状況を説明する文章で、漫画では絵やコマ展開で表現され、文章では書かない(書いても欄外)
  • ( )は補足事項やメモ。「 」内の( )は”ルビ”

○暗雲のたちこめる不穏な空

ナレーション 「人が天に近づき、
       神をも恐れなくなったとき、
       災いが天と地を覆った。
           (大天使記1章1節)」

 巨大な怪物が、天使の少女に、今にも喰らいつこうと襲っている。
 怪物は、20〜30メートルを超える魚のような身体に、複数の目、複数の羽。
 逃げる天使の少女は、16歳くらい、大きな洋弓で武装している。
 鍛え上げられた身体、かなりのスピードで飛翔している

効果音 『ギャア』
    『ギャア』

 怪物から、叫びとも呻きともいえぬ声が聞こえてくる

怪物 「クウ・・・テン・・シ」
   「クウ・・・」

 まるで地獄から聞こえてくるかのような不気味な声。
 天使の少女は身を捻りながら追撃を避ける

天使(少女) 「くっ!」

 目深にかぶったフードから鋭い目が覗く。
 怪物を睨む目つきは、天使というよりは殺し屋のよう

怪物 「クウ・・・」
   「テンシ」
   「クウ」
   「・・・喰う、天使」

 なおも、迫る怪物。
 怪物から、無数の異形の者たちが飛び立ってくる。
 サイズは人型で、ゆがんだ頭蓋骨、空洞の目、
 バッタのような逆に折れ曲がった足、昆虫のような羽を持っている。
 巨大な怪物の腹に数十匹が這いまわっているのが見える。
 彼女は逃げながらも身軽にクルっと身体を反転させると攻勢に出た

天使 「堕ちろ!」

 弓につがえると矢の先は複数に割れ、殺傷を目的とした凶悪な形状になった

効果音 『バシュッ!』

 彼女の放った矢が、飛び掛かってきた異形の者の、頭蓋骨ど真ん中に命中する

効果音 『ドカッ!』

異形の者 「ギエッ!」

 なおも矢を放ち続ける

効果音 『バシュッ!』
効果音 『バシュッ!』

 異形の者たちは、彼女の放った矢によって次々と墜ちていく。
 しかし、いくら倒しても飛来する異形の者たち

天使 「このぉっ!!」

 その数に圧倒され始める。
 飛び掛かる異形の者の群れにもみくちゃにされ、フードが外れる。
 綺麗な金髪のおかっぱ頭が現れる。
 鋭く見開いた目が特徴的な少女。
 その容姿には、まだどこか幼さがのこる

 器用に身体をひねり、回転しながら、
 後ろ向きに飛び、矢を放ち続ける

 弓にからみついている小さな龍が、矢を咥えながら叫ぶ

龍 「数が多すぎる!」
  「矢がなくなっちまう」

 龍は背中のケースから矢を咥え、彼女に懸命に渡している

 そのとき、巨大な怪物が大きな口を開けて接近してきた。
 周囲の異形の者たちに気を取られている合間に。
 怪物は、周囲諸共、彼らを吞み込もうとする

 怪物の影が彼らの顔に影を落とす

 絶体絶命

○夕焼けの高台。
 丘に立って誰かの帰りを待つ天使の少女。
 8歳くらいの金髪のおかっぱ頭だ

ナレーション「八年前。」

 少女の少し遠くに教会が見える。
 日中は教会に預けられていて、
 今は迎えを待っている様子

少女 「今日も、
   おそいな」

 ぶっきらぼうなしゃべり方。
 鋭く見開いた目が印象的な少女

 少女は、自分の頭より大きな箱を、
 身体の前に抱えている。
 箱には、”可愛がってください”と書かれた札と、
 小さな龍と聖書が入っている

少女「あっ」

 遠くに何かをみつけた。
 一人の大柄な天使が歩いてきている。
 30代くらいの大男で筋肉がすごい。
 肩に大きな荷物を担いでいる

 少女は怒って大男に言う

少女 「ビック!
   遅いぞ!!」

ビック 「すまん、すまん」
    「家族が病気になったって、
    帰っちまった奴が出てなぁ。
    おかげでこんな時間だ」

 ビックが少女の持っている箱に気づく

ビック 「あん?」
    「なんだ、それは?!」

少女 「拾った!」

 少女が箱を、顔の高さまで上げて、ビックに見せる。
 箱には龍と分厚い本

少女 「神父さんが、
   かわいそうだから
   面倒見てやれって」

 (背景に神父とのやりとり:回想)
 教会の門の前に捨てられた箱の前に、
 しゃがむ少女、と、困ったなぁという顔の神父

神父 「ガイアナちゃん、
   天使に必要なものは、
   優しさと愛だよ。」

   「人には親切にして
   あげるものだよ。」*手書きセリフ

   「聖書にも、
    「主に信頼して思いやり、
    親切にしなさい」と、
    詩篇37篇3節にあります。」

   「さて、ワシ今日はちょっと
   用事があるんでっと」*手書きセリフ

 ペットの箱を少女ガイアナにおしつけ、
 そそくさと逃げ帰る神父
 (回想:ここまで)

ビック 「えー?!」

少女(ガイアナ) 「ダメか?」

ビック 「やれやれ」
    「あの神父、
    体よく押し付けやがって」

    ブツブツ

    「ペット禁止じゃ
    なかったかなぁ」*手書きセリフ

 最近、住まいを引っ越したばかりで、
 慣れてない様子のビック

ガイアナ 「暗くなったら、この子は
     野犬に喰われるぞ」

 的確に状況だけ言うガイアナ。
 可愛いから飼いたいとか、
 かわいそうだから飼おうとか、
 そういう認識はない模様

ビック 「うーん。
    一晩だけだぞ」
    「また明日、
    神父さんに相談しようっ」

ガイアナ 「わかった。」

 ガイアナは神父に言われたから
 面倒みようとしているだけな感じ。

 夕闇の市場へ向かうビックとガイアナ。
 (画面構図は引きで、夕焼けの丘を歩いていくふたり、
 ビックはダンボールの中を覗いている。
 左右に吹き出しを散らせる。)

ビック 「なんだそれ、聖書か?」

ガイアナ 「この子に紐で結んであった」

ビック 「聖書まで教会に捨てていくとは、」
    「世も末だなぁ。」
    「やれやれ」
    「飼い主のやつ、
    よほど嫌なことでも
    あったんかなぁ」

 (夕焼けの綺麗な広い空に、蜘蛛の巣のような防空ネットを曳いた飛行船が飛ぶ。
 怪物の侵入を防ぐための兵器であるが、ここでは、
 飛行船がベールを曳いて飛んでいるような優しいイメージで描く)

○夕闇の市場。
 賑やかで活気あふれる市場へと、入っていくふたり。
 ここエデンで一番大きなマーケットだ、野菜やパンや果物を所狭しと並べらた店が連なり、
 頭上には飾りがぶら下がっている、毎日がお祭りのような賑わいだ。
 ビックたちは帰り道にこの市場を通っていくのが日課なのだ。
 遠くからビックとガイアナを見つけて呼ぶ店主の爺さん。
 ビックも手を挙げて応えている

店主 「おー、おかえり〜」
   「今日もいい子にしてたかな」

ガイアナ 「わたしか、
     わたしはいつも良い子だ」

 神父からも「良い子に」とばかり言われているので、
 そのまま言われていることを口から出している感じ。
 店主は習慣でしゃべっているだけなので、それにはとりあわずに

店主 「いいのが入ってるよ」

 袋を嬉しそうにだしてくる
 肉や野菜をいれてくれている

ビック 「お、うまそうだなぁ」

 後ろの方で、それを微笑ましく眺めながら
 井戸端会議をしているおばさんたち

主婦A 「あの分隊長さん、いつもご苦労さんねぇ」
主婦B 「亡くなった戦友との約束だって」
    「施設にも入れないで」
    「お子さん引き取って
    面倒みて
    立派よぉ」

 ビックはとくにはとりあわず、爺さんと話している

ビック 「爺さん、また明日な」

店主 「ガッちゃん、またねー」

 ガイアナと龍は、井戸端会議を不思議そうにながめている

○尖塔長屋。
 市場のはずれはタワー型のマンションに繋がっている。
 多くの住宅が低層だが、最近建った高層の公団住宅だ、
 住人たちは尖塔と呼んでいる
 (螺旋型立体長屋参照

 中へ入っていくビックとガイアナ。
 身なりの良い天使たちが巨大な吹き抜けを飛びながら、
 各家の扉へ向かっている

 内壁に螺旋状に道がついている。
 荷物があるビックたちは、そこを歩いて登っていく。
 飛べる者達の世界なので高いところにも柵はなく、
 壁にはリング型の綺麗な照明が並び、やわらかく吹き抜け全体を照らしている。

ビック 「ペットは禁止じゃなかったかなぁ」

龍 「コホン、コホン」

ガイアナ 「この子、咳してるー」

○部屋に入ったふたりと一匹。
 天井には天使の輪を模した照明器具、綺麗な部屋で最近建てられたことが分かる。
 龍の本と結ばれてる紐をといてあげるガイアナ

 龍、拾ったときより少しふっくらと膨らんでいる

 風船のように宙に浮かぶ龍

ガイアナ 「ビック!こいつ浮くぞ」

ビック 「そうかぁ
    前の飼い主は
    珍しいもの好き
    だったのかもなぁ」

 ものすごく適当に相槌をうちながら、
 電磁調理器のようなコンロに鍋をかけ、
 テキパキと調理するビック

龍 「ウッ」

 少し苦しそうな龍

龍 「ケホッ」
  「ケホッ」

 こもった様な、こらえたような咳をする龍
 みつめるガイアナ
 (心配そうにとかはない、ただ見ている感じ)

効果音 『チロッ』

 龍の口の中から、小さい火。

効果音 『ゲホッ』

 唐突に龍の口から炎が吹き出した。

効果音 『ドゴオオ!!!』

 部屋がまるこげになった。
 頭チリチリになったふたり
 (龍はほっそりとした状態に戻っている)

○尖塔の外。
 サイレンが鳴っている。
 『ウゥ〜』

 タワーの外で管理人に、額に汗をかきながら、ペコペコ頭を下げているビック。
 周囲にはあわてて避難した住人たち

住人A 「火よ、火」
    「ボヤらしいわ」
住人B 「あら、
    危険でしょ」
住人C 「ねぇ、ここは
    火はダメだ
    ものねぇ」

管理人 「困りますよ。
    そんな物騒なペット」

ビック 「すみません、
    すみません」
    「まさか火を吹くなんて」*手書きセリフ
    「アハハハ」*手書きセリフ

 事態の収拾を図るべく全力を尽くすビック。
 おかまいなしな雰囲気で横につっ立っているガイアナ、
 ビックを見上げながら、しっかり龍を抱っこしている。
 龍は相変わらずケホケホと小さな炎を出している

○平長屋。
 夕闇の古い長屋街。
 完全に夜になることがない天使の世界。
 夜になって星がいくつかは見えてはいるが、
 街灯がなくともそこそこ明るい。
 尖塔長屋と違い、古く生活感溢れる門戸が並ぶ

 長屋の管理人の爺さんとビックが話をしている

ビック 「夜分にすまない」

爺さん 「まだ、そのまんまにしてあるよ」
    「ガッちゃん、元気してたかい」*手書きセリフ

 気さくな爺さんは、満面の笑みで言う

爺さん 「いいよ、いいよ」
    「こんな古いところ、借り手がいるわけでなし」
    「ヒヒヒヒ」*手書きセリフ

 ビックは最近までこの平長屋の住人だった。
 尖塔は人気で万人が入れるものではないが、
 たまたま抽選に当たって入居でき、引っ越していったばかりだった。
 爺さんは借主が戻ってきて内心喜んでいる

ガイアナ 「なんで!」
     「なんでドラゴは
     ダメなの?」

ビック 「高層タワーは
    いったん燃えたら
    煙突効果で
    全焼しかねないのっ」
    「って、ドラゴ?」

 (背景で爺さん独り言)
爺さん 「近代建築は
    なにかと
    面倒だよぉ」*手書きセリフ

 状況をよく理解していないガイアナ

ガイアナ 「おまえ、ドラゴな!」
     「炎を吹くから、ドラゴ!な!」

龍(ドラゴ) 「ゴォッ!」
      「ゴォッ!」

 ガイアナの呼ぶ名前に、嬉しそうに応えるドラゴ

ビック 「ドラゴン、だろ」

ガイアナ 「ドラゴ!ファイ!!」

ドラゴ 「ゴォォオオオオオオオッ!」

 すごい炎が周囲を照らす

爺さん 「ほぉっほっほっ」
    「こりゃあ、すごい」

 ドラゴの炎に興奮する爺さん

爺さん 「大丈夫。
    火災保険なら、たーんまり
    入っとるからなぁ」
    「ひーひっひっひ」

ビック 「はー、はっはっはっ(汗)」

 燃やしてもいいとばかりに笑う爺さんに、ちょっとひくビック。
 ドラゴは嬉しそうに炎を吐いている

○翌朝。平長屋の門戸で、
 表札がわりの看板を立てているビックと平長屋管理人の爺さん。
 飛ぶことができる天使たちは遠くからでも見えるよう、
 幅40センチ、高さ1メートルくらいの、
 わりと大きめの看板を、家の前に出している。
 良い天気

ビック 「これで、よしっと」

 看板には「Bick」の名前と「チラシお断り」の手書きの紙が貼ってある。
 さっきまで野晒しで倒してあった看板なので多少汚れている

ビック 「また、お世話になります」

 長屋の管理人の爺さんに頭をペコリと下げるビック

爺さん 「はい、はい。」
    「しかし災難だったなぁ、
    せっかく抽選に当たって
    尖塔長屋に入れたってのに。」
    「ひっひっひ」*手書きセリフ

ビック 「まったく、
    まだ敷金分も住んでないのに・・・」
    「とほほ」*手書きセリフ

爺さん 「今日はワシ。
    暇だから、
    ガっちゃん見とくよ」

ビック 「助かります」

 そう言いながらビックは大きな羽を広げると、飛び立ち仕事へ出かけていった。
 爺さんは日当たりのよいブロックに腰掛け煙管でタバコを吸い出した

効果音 『ぷくりぷくり』

 輪っかになったタバコの煙。
 その横をぷわぷわと浮いて漂うドラゴ。
 ドラゴには紐がつけてある、その紐を岩につないでいるガイアナ

 それを少し離れたところから見ている少年

 少年は遠くから声をかけてくる

少年 「それ、」
   「紐でゆわってあるのー?」

 ガイアナがそれに気づいて応える

ガイアナ 「寝てるうちに
     浮いてくるのー」

 少年はそれを聞くと近づいてきた

爺さん 「尖塔の子かい?」

少年 「うん」

 タワーを指差し応える

少年 「ラファエルっていいます」

 礼儀正しい姿勢で挨拶する少年ラファエル

爺さん 「そうか、ラファエルくんか」
    「カッコいい名だな」

少年(ラファエル) 「大昔の偉人ですよね」
         「キラキラネームだから。
         僕は好きじゃないです」

爺さん 「ホッホッホ」
    「そんな見方もあるかな」
    「アイス食べるか?
    ちょっと待ってろ」
    「よっこいしょ」*手書きセリフ

 まだ片付けが住んでおらず外に出っぱなしのビックの冷蔵庫から、
 勝手知ったるといった感じでアイスを出す爺さん

ガイアナ 「わたしも!」

 ガイアナがビックの看板を引きずって動かしている、
 弓の練習の的にするのだ。
 ここに住んでいたときは毎日それをしていた

 アイスを咥えながらの3人

ガイアナ 「教会に置いてあった箱にいたときは、
     重い本に縛りつけあったの」
     「たぶん飛んで
     いかないように」

ラファエル 「この辺じゃ
      見ない生き物だから」
      「どこかから
      飛んできたのかな」

ガイアナ 「風船みたいに」

ラファエル 「うん、
      風船みたいに」

ガイアナ 「お腹をなでて
     あげると喜ぶよ」

ラファエル 「へー」
      「ぼく、初めて見た」

ガイアナ 「わたしも」

 ドラゴの腹を撫でるふたり。
 気持ちよさそうにぷかぷか寝ているドラゴ。

ドラゴ 「zzzzz」

 いつの間にか、爺さんもふねをこいでいる

爺さん 「zzzzz」

 ラファエルがガイアナのことを聞いてくる
 ガイアナは弓をいじっている

ラファエル 「おまえのお父さん、
      でっかいな。」

ガイアナ 「見てたの?」

 ガイアナ、弓を引きながら。
 鋭い目で看板を狙う

ラファエル 「え、う、うん。」

 はっきりとそう言われて、ちょっと気まずくなった少年。
 自分は遠くから見られていたらいやだと思うのだろう。
 ガイアナは気になっていない様子

ガイアナ 「あれは、父さんじゃない」
     「死んだの、お母さんも。」

 はっきり、はっきりと、喋るガイアナ。

効果音 『ダン!』

 ガイアナの放った矢がビックの看板に刺さる。
 はっきりした「死」という言葉を聞いて、緊張したラファエル

ラファエル 「そ、そうなんだ」

ガイアナ 「うん」

 ものおじしないガイアナに、興味をひかれるラファエル

ラファエル 「お、お父さんはさ、どんな人だったの?」

ガイアナ 「いい人」
     「おもしろくって」
     「お土産持ってきてくれた」

ラファエル 「・・・ふーん」

 さびしくないのかな。自分なら嫌かもしれない、そんなことを思いながら

ラファエル 「さびしくは・・・」
      「ないの?」

ガイアナ 「いそがしいからな」
     「わたし、
      強く
      ならなくちゃ」
     「いけないし」

 看板まで走り、矢を抜いているガイアナ。
 ずっと練習してきたのだろう、看板にはよく見ると矢が当たった無数の傷がある。
 また、弓に矢をつがえて狙う。
 指は擦れ赤く荒れている

 両親を亡くしたと言うのに、
 実直で素朴に前のみを見て生きるその姿に、
 子供ながらにラファエルは静かな衝撃を受けた

ラファエル 「・・・」

 (メモ:ラファエルがのちに被災したあと、
 またガイアナに会いに来たのは、この会話がきっかけとなる。
 兄妹だけになり心細くなって、でも強くならなくちゃいけないって思ったとき、
 この子とのセリフを思い出す。
 なので、そんな印象的なカットに)

 広々とした空と空き地。
 良い天気。
 そこにいるのはガイアナとラファエル、
 そして昼寝をしているドラゴと爺さんだけ。
 (引きのカットで広々感を出す)

遠くから少年たちの声 「ラファエルー」

 男の子二人がラファエルを呼んでいる。
 銀髪の丸い顔と、長い黒髪の吊り目の少年だ

ラファエル 「あ、ガブちゃんと、ミカぽんだ。」

 ガイアナたちの方を気にしながらも、
 少年たちのいる道の方へ行くラファエル
 (ふわりと軽く飛んでいく)

ガブリエル 「なにやってんだよ、
      もう夕方だぞ。」
      「なんか
      おもしろいもんでも
      あったのかよ」*手書きセリフ

 やんちゃな銀髪の少年が、
 始終からかうような表情で、
 ラファエルがさっきまでいた方向を
 覗き見るように言った。

ミカエル 「早く帰らないと怒られるよ」
     「ヒヒヒ」*手書きセリフ

 ミカぽんと呼ばれた長髪の少年は始終薄ら笑い。
 全員自分たちのキラキラネームが嫌で、
 基本あだ名で呼び合っている。
 3人とも身なりが良い、尖塔の裕福な子たちだ。

ガブリエル 「なんだ、知り合いか?」

ラファエル 「ううん」

ラファエル 「龍がいたんだ」

 なんとなく、気になった少女のことを言わずに誤魔化したラファエル。
 ガブリエルは平長屋を見ていう

ガブリエル 「ボロっちいなぁ」

ミカエル 「あそこ、人住んでんの?」

ラファエル 「みたいだね」

 ガブリエルとミカエルが平長屋をボロいとバカにしだす、
 親たちがいつもそんなことを言っているのだろう。
 ラファエルもつい合わせて強がってボロだなんだいう

ガブリエル 「ああいうのって、
      その日暮らしで、
      計画性がないからなんだよ」
      「父さんたち言ってたぜ」*手書きセリフ

ミカエル 「ヒヒヒ」*手書きセリフ

 ラファエルも強がって何か言おうとしたとき、
 ガブリエルとミカぽんの背後に大男の影が映る。
 分隊の仕事から帰ってきたビックだ

 買い物を済ませて帰ってきたのだろう、
 大きな袋を抱えている

ビック 「ジャマだぞ」

 往来に広がってお喋りしている3人が
 道を塞いでいるので大男が通れないだけなのだが、
 威圧的なシチュエーション。

ガブリエル 「お、おっと」
ミカエル 「ひえっ、ヒヒヒ」
ラファエル 「す、すいません」

 ガブリエルは横へそれ、ミカエルはふわっと飛び、ラファエルはおじぎした。
 3人がどいて道が空き、ビックは悠然とすれ違っていく

ラファエル 「・・・」
ラファエル (さっきの子、この人に育てられてるんだ)

 ビックを上目遣いにチラと見るラファエル

ガブリエル 「でけぇ・・・」

 強靭な肉体に、圧倒される少年たち。
 ビックは、道に広がって塞ぐんじゃねえよ、と睨んでる

ビック 「なんだ、あの三バカ」
    ブツブツ
    「ボロで悪かったな」*手書きセリフ

 平長屋の悪口、聞こえていた。
 尖塔の方へ逃げ帰る少年天使たち

ガブリエル 「み、見たか、あのぶってえ腕、金の紋章ッ」
      「あれ、分隊長だぞッ」
ミカエル 「こえぇ、こええ、ヒヒ」

○夕支度。ビックとガイアナ、家の外で焚き火を囲みながら。
 鍋が美味しそうだ。

ビック 「うっはー、うまそうにできたぞ」

 引越し先から戻ってきたばかりなので、
 荷物はまだ外に出っぱなし。
 野営には慣れているビック、
 鍋料理をよそった取り鉢をガイアナに渡す

ビック 「ほれ、やけどすんなよ」

ガイアナ 「はふ」
     「ふは」

ガイアナ 「ビックの
     お父さんは
     どんなんだった?」
     「でかかったか?」

ビック 「はぁ?」

 薮から棒な質問に困惑するビック

ビック 「なんだ、薮から棒に」

 ガイアナは午後のラファエルとの会話の続きのつもりなので、
 藪から棒ではないのだが、ビックからしたらそんなの分からない

ビック 「俺は・・・」
    「知らねえんだ」

 こいつ、普段はそんなこと聞いたことないのに、と思いつつも、
 一応、質問にきちんと応えるビック

ビック 「どんな人か・・・、か。
    どんなだったのかなあ、」
    「小さいときのことは
    正直あんまし
    ハッキリ
    覚えてないしな」

ガイアナ 「そうか」

 ガイアナ、ドラゴにご飯をあげながら

ガイアナ 「ビックは
     父さんも母さんも
     知らないのか」

 ガイアナは昼間のラファエルのように、
 ビックの生い立ちを自分と比べて可哀想だ、だとか、
 思う神経は持ち合わせていない、ただ聞いている感じ

ビック 「ああ」

ガイアナ 「さびしくはなかったのか」

 昼間に聞かれたことを、そのまんま聞いてる感じ。
 インプットされたものをアウトプットしてるだけ、といった感じ

ビック 「ああ、別に」
    「まぁ、おれには
    この国が家
    みたいな
    もんだって
    かんじだ」

 ほのかに暗くなってきた空には星が瞬いている

ガイアナ 「そうか
     ビックは、
     その家を守るために
     守護分隊に
     入ってるのか?」

ビック 「え?
    べ、別にそんなこと」
    「考えたこともねえが」

 なんで今日はこいつこんなことばっか聞くんだ、
 ・・・昼間の三バカのせいか、と気づくビック

ビック 「あ。」
    「あの尖塔のガキか?!」

ガイアナ 「ラファエルか」
     「うん
     あいつは
     おとなしくて
     いいやつだぞ」

ガイアナ 「いろいろ聞いてきてな」

ビック 「金もちのガキは
    なんかこう
    いけすかねえんだよなぁ」
    ブツブツ
    「ボロだなんだと・・・」*手書きセリフ
    「アチチチ」

ガイアナ 「やけどしないように
     ふうふうして
     食べるんだ」

ビック 「はーい、はい」

 呆れながら、生返事のビック
 ドラゴはうれしそうに炎を吹いている

ドラゴ 「ボォっボォっ」

 まぁ、ゆうなれば、
 国が家で、そこに住む人々が家族、
 それを守るのは当然のことだった。
 もっとも、そんな風にカッコつけて喋ることのないビックだった

○夜。といっても薄暗くなるだけで、
 完全に闇にはならない天使の国。

 部屋の中のハンモックで就寝中のガイアナ。
 (はだけた毛布、ふわふわとした羽、
 見た目だけなら、まさに天使、という感じ)
 部屋はまだ整理されておらず冷蔵庫も外に出たままだが、
 ガイアナの寝床だけは先に用意した様子

ガイアナ 「・・・お母さん」

 寝言を言っている。
 ただ、どこか苦しそうだ。
 悪夢を見ているガイアナ

 (枠線なし断ち切りまで使った1ページカットで回想シーン)

ガイアナの母 「ガイアナ!ガイアナ!」

 ガイアナ目線で、母の姿。
 金髪の長い髪、細身だが鍛えられた身体、目がガイアナに似ている

 異形の化け物が叫ぶ

化け物 「ギィイイイイイ」

 その化け物は、ゆがんだ頭蓋骨、空洞の目、
 バッタのような逆に折れ曲がった足、昆虫のような羽を持っている。
 ガイアナは叫ぼうとするが、その化け物の歯が腹と喉に食い込んでくる。
 化け物はガイアナを咥えている

ガイアナ 「・・お、お母さん・・・」

 ガイアナの口から母を呼ぶ言葉と血が吹き出した。
 母は娘を取り戻そうとするが

効果音 『バシュッ!!』

 血飛沫と暗黒

 引きのカットでガイアナが、
 喰いちぎられたと分かるシーン。
 画面左側に母、右側にガイアナと化け物

 絶望と怒りが混じった母の顔のアップ

 その直後のコマ、画面左側にガイアナ、右側に化け物に母が噛みつかれているシーン。
 化け物の大きな口が、母の喉から胸、腹にかけて鋭い歯を食い込ませている。
 母は先ほどと違い、武装しており頭上にはリングが見える。
 手に持った鋭く大きな刀は、その切っ先を深く化け物に突き刺し貫いている

 母が口元から吐血。化け物は渾身の力で母を噛みちぎる。
 引きのカットで母が喰いちぎられているのが分かるシーン

 化け物の雄叫び

化け物 「ギィイイイイイヤヤヤヤアアアアッ」

 絶望するガイアナの表情のアップ
 (ガイアナの顔には遡上痕が見て取れる)

 辻褄の合わない時系列(時間遡上によるもの)

 母を殺した化け物には母の剣が突き刺さっている。
 その背後から、更に大きな化け物が飛来するのが見える。
 20〜30メートルを超えるの魚のような身体に、複数の目、複数の羽。
 その巨大な怪物がガイアナを襲う

巨大な怪物 「ギィイイイイイイイイ!!!」

 大きく口を開け地面ごと呑み込もうと突進してくる。
 絶体絶命

効果音 『ズダーン!!!』

 天から降ってきた大柄な戦士がそれを阻止した。
 巨大な化け物に大きな槍が垂直に刺さっている。
 戦士が化け物たちを一掃した。
 暗雲の中、背後から射す一筋の陽光。
 (戦士のシルエットは若い時のビック)
 戦士は寂しそうにガイアナの母の亡骸を見つめ立ち尽くしている
 (周辺には無惨に息絶えた母、刀が突き刺さった化け物と、頭部を巨大な槍で粉砕された巨大な化け物)

 (回想シーンここまで、以降は枠線入りの通常コマ)

 ハンモックのガイアナの顔のアップ。
 (仰向けで、目を見開き、天井を凝視している。天井から見たカット)

ガイアナ 「はぁ、はぁ、はぁ」

 小さな手に毛布を握りしめている。恐怖で小刻みに震えている

○家の外、
 先ほどの悪夢から覚めたガイアナが、
 静かに家から出てくる。

 外ではビックが焚き火で湯を沸かしている

ビック 「悪い夢か」

 ヤカンに手をかけながら、そっけなくビックが聞く

ガイアナ 「うん」

ビック 「昼間、いろいろ思い出したからな」

 炎に枝を焚べるビック

ビック 「昔のことには、」
    「思い出した方がいいことと、
    たいして良くないことがあるな・・・」

ガイアナ 「ビックもか」

ビック 「ああ・・・」

 この大男も、良くない夢で起きたところだったらしい

ビック 「寝る前に、昔話なんかしなきゃよかったなぁ」*手書きセリフ
    ブツブツ

 ビック頭をかきながら

ビック 「紅茶でいいか」

ガイアナ 「うん」
     「ありがと」*手書きセリフ

ドラゴ 「ZZZZZ」

 ドラゴは紐に繋がれ、上下しながら寝ている

 その静寂を破るように轟音が轟く

効果音 『ドゴォオオオオオン』
効果音 『ビリビリビリ』

 地響きが平長屋全体を揺らす。
 弾かれるように立ち上がるビック。
 轟音の方角を見ると尖塔から黒煙が立ち上っている

ビック 「!」

 鬼気迫る顔で凝視するビック。
 (尖塔のアップ。根本に巨大な化け物の羽)
 尖塔下部が崩壊している。
 瓦礫の中に怪物の羽がハッキリと見える

ビック 「まさか?!」

 (上空からのカット)
 尖塔下部に巨大な生き物が横たわっている。
 サイズは巡視艇くらいはあるだろう、
 20〜30メートルを超えるの魚のような身体に、
 複数の目、複数の羽が見て取れる。

 街に鳴り響き出すサイレン

効果音 『ウゥ〜』
    『ウゥ〜』

 警戒の警報音が街全体を包む

ビック 「バカな!」
    「こんな内地でッ」

 近隣の住民も轟音に驚いて家の外に出だてきている

爺さん 「何事だ?!、ビックさん」

 管理人の爺さんもナイトキャップに枕を抱え、
 心配そうに、おろおろとビックに「さん」づけで叫ぶ

ビック 「爺さん、皆を家から出すな!」
    「ガイアナを頼んだぞ!」

 ビックは急いで身支度を整えながら叫ぶ

爺さん 「お、おぅ!」

 弾かれたように武装し、飛び立つビック

爺さん 「き、気をつけてな!」

ガイアナ 「・・・」
     ガクガク
     ガクガク

 爺さんの横で、立ち尽くし、震えるガイアナ。
 意に反して恐怖に怯える身体を、
 どうしてだ、震えるな、と、
 必死に立てなおそうとしている

○尖塔の周辺。
 瓦礫が散乱している。
 近隣の住人は混乱し、野次馬は遠巻きに不安げな表情で見ている。
 周囲は既に多くの兵達が事態の収拾にあたっている。
 隊員ふたりが駆けつけたビックに気づいて近づいてくる

隊員A 「ビックさん!」

ビック 「どうなってる」

隊員A 「 どうも、こうも、」
    「トビヲのようですがッ」

    「妙なんです、
    ここエデン外縁の警報は
    ひとつも反応せず!」

隊員B 「ここより外側の、
    第七区、第八区・・・、
    第九区の煉獄からすらも、
    何の連絡も入ってません。」

    「こんなこと、
    ありえませんよ。」

ビック 「・・・ここ第六区が、
    『エデン』と呼ばれるのは、
    伊達じゃない。」
    「外周に周回する大きな島が
    いくつもあって、
    とびきり安全だからだ。」

隊員B 「いつもなら、
   外周の島や煉獄から
   トビヲ侵入の第一報が
   届くはず。
   ・・・ですよね」

 燃え盛る周辺を見渡すビック

ビック 「・・・。」

 何か奇妙なものを感じている

 隊員たちが報告する中、付近から貨物機が垂直に飛び立った。
 機体には近衛師団のマークが威圧的に飾られている

効果音 『ドゥドゥドゥ』
効果音 『ドドドドドドドド』

 風で周囲の瓦礫が舞い上がる。
 ビックが貨物機を睨み見る

ビック 「中央の連中か」

隊員A 「ええ、ジブンたちが
   駆けつけたときには、
   既に中央直轄の兵達が」

   「負傷者の救出はそっちのけで、
   化け物(トビヲ)を回収していました。」

隊員B 「あの紋章、
   王族の近衛師団です。」

ビック 「えらく、
    早すぎるじゃないか」

 気に入らないといった風情で、
 吐き捨てるようにそう言うと、
 迅速に現場の指揮をとりだすビック

ビック 「負傷者の救出を急げ」
    「念の為、レーダーや警報も、再確認しておけ」

隊員A 「はいっ!」

 隊員Aが素早く、周囲の救急や消防隊員に指示を出す。
 隊員Bがビックに駆け寄り進言する

隊員B 「あ、あの・・・」

ビック 「なんだ、
    どうした」

隊員B 「あの化け物・・・トビヲ、
   いつも我々が戦ってるやつと、
   違います」

ビック 「違う?」

隊員B 「体表に幼体も
   いませんでしたし・・・。」

   「奴らは共食い種族です。
   だから、普通は表皮が
   もっと傷だらけです」

   「あれは、
   遠くから飛んできた
   というより・・・」

ビック 「ここで孵った、」
    「そう言いたいのか」

 現場に着いたときから、
 ビックも奇妙さを感じとっていた。
 高高度から突入してきたにしては、
 尖塔の損壊が激しくない。
 通常はもっと衝撃でクレーターのようになるはずが、
 ここは下から爆発したようになっている。

隊員B 「妙な話だと、
   私自身も思いますが」

   「まるで突然・・・、
   ここに表れたような」

 その会話を切り裂くように、少年の叫び声が響く

少年の声 「お父さん、お母さん!!」

救急隊員 「子供を離して」

看護婦 「さぁ、」

少年 「いやだよお!」
   「いやだぁ!!」

 少年の横で少女が嗚咽している。

少女 「エッエッエッ」

 救急隊員が首を振って、合図してくる。
 両親は死んでいる。
 少年と少女は、彼らの子供なのだ

 少年は夕方にビックがみかけた子、ラファエルだった。
 横で嗚咽している少女は妹らしい

ビック (くそ・・・)
    「なんて夜だ。」

○翌朝。第六区守護分隊基地。
  中央政府の飛行船や貨物機が所狭しと駐機している。
  ビックたち六区の分隊員は総勢20名程度、
  昨夜から事態収拾に当たってきた隊員たちには疲れが見える。
  その後ろに中央からきた兵たち100名余りが並んでいる。
  この中隊規模を率いる近衛兵が、主に六区の分隊員たちへ、
  今後の予定を説明している。やんわりと説明というが命令だ。

近衛兵 「今後の事態収集には、
    中央直轄の兵達が当たる。」
    「六区の諸君には、今まで通り
    通常の歩哨活動を行ってもらいたい。」

 通常任務のみと言われ、六区の隊員の一人が異を唱える。
 若い隊員で、階級への配慮が苦手なタイプだ。

若い隊員 「我々も、索敵に
     参加すべきなんでは。」
     「本当に周辺空域、
     安全なんですか?」

 近衛兵が迷惑そうに応える

近衛兵 「この六区エデンよりも、
    更に外側の第七区や八区、」
    「そして九区煉獄でも、
    トビヲ発見の報告は
    上がっていない。」

    「君たちの監視活動にも、
    問題はなかった。」

    「昨晩のトビヲは、
    捕捉不能な個体だった、
    そういうことだ。」

若い隊員 「そんなことッ」

 そんなことを言っているのではない、そう反論しようとする若い隊員の肩に、
 ビックが手を置いて制した

ビック 「やめとめ」
    ボソ
    「それ以上、食い下がると
    俺たちのせいにされるぞ」

 後ろに立っている隊員たちの顔には、昨晩からの徹夜作業による疲れが表れている
 (ビックは全員のことを考えている)

近衛兵 「周辺空域の警戒は今まで通りに、
    七区、八区が中隊規模で当たる。」

    「なお、今回の事故への補償は、
    すでに閣議で手厚い補償が
    決定している。」

 近衛兵は冷徹なままの目で、若い隊員を見ると言った

近衛兵 「あまり事を荒立てないように、
    お願いできないかね。」

 うすら笑いすら浮かべているように見える。
 気に入らない若い隊員。冷静に諌めるビック

○詰所。基地内の建物。
 ドーム状で開口部が大きく広々としている。
 航空機のハンガー(格納庫)をすこし小さくしたような建物。
 奥に軌道都市全体を模した戦略地図がある。
 ここが六区の分隊員たちの詰所だ。

 隊員たちが入ってくる、
 先ほど近衛兵にくってかかった若い隊員も、
 ゴミ箱を蹴飛ばし毒吐きながら入ってくる。

若い隊員 「くそっ、あいつ」

ビック 「通常任務と言われたら、
    通常任務だ。」

 ビックが諭すように言う

ビック 「副長!」

副隊長(隊員A) 「昨晩からの、
        皆の対応は完璧だった。」
        「後は、近衛諸隊が
        中心となり処置を講じるため、」
        「我々は通常の任務に戻る。」

 疲れ切った隊員たちから、安堵のため息が漏れる。

副隊長(隊員A) 「この後24時間は、
        人員を倍に。」
        「順次、休憩を
        とるように。」

ビック 「手の空いている者は、
    家族に顔を見せてこい。」

    「休むのも仕事だ。」

 ビックは隊員たちそれぞれを気遣って、そうつけ加えた。

    「いつでも
    戦える身体に
    しておけ」

 若い隊員の背中をポンと叩いた

 詰所の奥の方、昨晩の隊員Bが考え事をしながら、戦略地図を見ている

 軌道都市は中央の零から外縁の第九区まで、
 複数の島が太陽を周る衛星ように周回している。
 複数の島の周回起動は真円ではなく、
 数箇所で交差する楕円軌道を描いている

 中央の島に「零」、外縁に向かって
 「第壱区」「第弐区」・・・「第六区」、
 そして一際大きな「第七区」、「第八区」があり、
 一番外周の島に「第九区」との記載がある。
 (第六区には Eden、第九区には Purgatorium と、
  俗称が手書き筆記体で書かれている。)
 九区の外側には無数の黒いトビヲ(怪物)が描かれている。
 各地区の周囲には防空ネットを曳いた飛行船も描かれており、
 怪物の侵入を防いでいることが分かる

隊員B 「・・・ここエデン外周の
    警報や防御に、まったく
    かからないなんてこと、
    あるんでしょうかね」

 ビックが疲れた身体をどかっと長椅子に落とす

ビック 「さぁな。」

 遠くを眺める目でつぶやく

ビック 「ただ・・・、
    オレ達は、あまりに、」

    「奴らのことを、
    知らなすぎる。」

 やっとひと段落。疲れが顔に浮かぶ、遠くを眺めるビック。
 「ま、そうですね」という顔の隊員B

○墓地。被災者の葬儀。西洋式。
 ラファエルの両親の葬儀が墓地で執り行われている。
 参列者を限定した家族葬。
 棺の前にラファエルと妹。
 親族が20名ほど、皆よい身なりをしている、
 その他に近衛兵を含めた中央政府関係者が10名余り。
 近衛兵の言った手厚い補償が見て取れる。

 ラファエルと妹は、泣き腫らした顔で立っている。
 妹の肩を親戚が抱く。
 ラファエルは妹の顔を見て、呟いた

ラファエル (僕が強くならなくちゃ、
      強くならなくちゃ・・・)

 哀悼の空砲が鳴り響く

効果音 『ターン・・・』

 青空には、やさしくベールのような雲が、寂げに広がっている

○朝。ビックの家の看板。
 弓矢の的が掛けてある。
 中央付近に矢が何本も刺さっている。

効果音 「ギリリ・・・」

 ガイアナが弓を引き絞る

 弓を持つ手の親指で矢を支え、
 弦を親指で引く、古代モンゴルの馬上弓に見られる
 サムドロー(親指引き)スタイルだ。
 小さい体でも長い矢を引くことができ、
 周囲の障害物に当たりにくく素早い速射が可能だ。
 戦闘中や飛翔しながら弓をつがえなければならない
 守護分隊弓兵独特の射法を、ビックが教えている。

ビック 「弓を持つ手は、
    打つと同時に
    緩めて返す」

   「また力んでるぞ。
   回転を妨げない」

 ビックは装備のメンテをしながら、
 片手間にガチギレのフォームに注意をしている。

ガイアナ 「矢は当たってる」

ビック 「弓を最後まで、
    コントロールし続ける事が
    大切なんだ」

 おまえが全部当てるのは知っている、
 俺はフォームをチェックするだけだ、
 ビックはそんな感じで的はあまり見ていない。
 (飛翔しながら弓を扱うには、常に武器を身体の一部のように扱わなくてはならない)

効果音 「ダン!」

 また、矢は的のド真ん中を貫いた。

 その様子を、少し離れた物陰から少年2人が観察している

ガブリエル 「今度こそ、
      当たらない方に
      1ドル!」

ミカエル 「ヒヒ、また当たるよ」
     「だってさっきから、
     一本も外してないじゃん」

効果音 「ダン!」

 またも的の真ん中を貫くガイアナの矢

ガブリエル 「く、くそっ」
      「くそ」

ミカエル 「ヒヒヒ」

     「どうして、そう
     逆張りするのさ」

     「ガブちゃんは
     根っからの
     ギャンブラーだねぇ」

     「お小遣い全部、なくなっちゃうよ」*手書きセリフ

 ガブリエルから手にしたコインを
 ジャラジャラしながら笑うミカエル

ガブリエル 「そういや、最近
      ラファエルの奴
      見ないな・・・」

 子供ながらも、どう声をかけたらいいか、と困惑と寂しさの入り混じった声でそう言った

ミカエル 「・・・あんなこと、
     あったしねぇ」

ガブリエル 「あいつの
      お父さんとお母さん、
      ふたりもいっぺんに
      死んじゃうなんてなぁ」

 しんみりする二人

効果音 「ダン!」

 また矢は的の中央付近に刺さった。
 また的中。
 悔しがるギャンブラーガブリエル。

ガブリエル 「くぅ~、
      次こそ」

      「全額だ!」
      「今までの全額
      賭けろ!!」

ミカエル 「ヒヒヒ」

     「いいよ。
     命中に全額」

 ガブリエル 「外す方に全部!」
 もはや、擦りまくったパチンカス状態のガブ。
 冷静に考えることができていない

 次の瞬間、今日初めての事が起こった

効果音 「カーン!」

 矢が的をかすめ、看板の端に当たり跳ね飛んだ。
 今日初めて的を外した矢。
 予想外の結果に唖然とするミカエルとガブリエル

ガブリエル 「は、外れた・・・」

 ガイアナとビックが横を見ている。
 的を見ていない。
 視線の先にはラファエルがいる

ミカエル 「あれ・・・
     ラファくん?」

 ラファエルが思いつめた真剣な表情で、
 ビックの家の前に立っている。

 泣きはらした表情、
 今にも崩れ落ちそうな自分を
 必死に立たせている。

ラファエル 「僕にも、
      戦い方を、
      教えてください!」

 ラファエルはそうビックに言った。

ラファエル 「お願いします!」

 深々と頭を下げるラファエル。

ラファエル 「ぼく、僕・・・。」
      「強くなりたいんです」

 泣きはらした顔をぐしゃぐしゃにしながら
 下を向いたまま懇願するラファエル。
 ここ数日、自分だけで耐えてきたのだろう、
 なんとなくここへ来て、
 このふたりを前にしたとき、
 堰を切ったように泣き出してしまった。

 先日の被災現場でラファエルを見ていたビックは、
 ラファエルの肩にそっと手をかけ、支えてやっている。

 それをじっと見るガイアナ

 (手前にガイアナの後ろ姿(逆光)、向こうにラファエルとビック)

声 「おまえは泣き虫だな」

 冷静で空気を読まない声がそう言った。
 (ガイアナの頭のあたりに吹き出しをかぶせる)
 人を冷静にさせる声質、その声にハッとさせらるラファエル

ビック 「!」
    「おまえ、なんてことを」

 身内を失った者の気持ちを察しもせず、なんてことを言うんだと、
 嗜めようとしたビックに、ガイアナは自分は何も言っていないぞと言う。

ガイアナ 「わたしじゃない」

 ガイアナはドラゴの方を向いた。
 声の主は、龍(ドラゴ)だった、少し膨らんで浮いている

 火を吹くだけで喋らないと思っていたので、驚いたビックとラファエル

 ドラゴは続けて言った

ドラゴ 「その腹の中の、怯え、
    焦り、怒り、すべてを、
    力に変えろ。」

 小さな龍の口から漏れるチロチロとした炎が、大きな炎に変わった

効果音 『ゴォッ!』

ドラゴ 「両親を亡くしたのは、
    おまえだけじゃない」

    「その子もだ同じだ」

効果音 『ゴォッ!』

 尻尾でガイアナを指し、頭上から威圧感を持った態度で炎を吐きながら言うドラゴ。
 火を吹く度に、だんだんと萎んでいき、地べたにぺたんと着地した

効果音 『コォ・・・
    ぷすんぷすん』

 人の言葉を喋る動物など見たことないぞと、
 気味の悪いものを見るようなビック

ビック 「な、なんだこいつ」
    「しゃ、喋れるのか・・・」

ガイアナ 「ビック、怖がらなくていいぞ、
     その恐れを力に変えろ」

ビック 「はぁ?!」

ドラゴ 「オウムだって
    しゃべるだろ?」

ビック 「それは、ちょっとちがうだろっ!」*手書きセリフ

ミカエル 「なんだ、なんだ?」

ガブリエル 「喋る龍だってよ、
      なんか、すげー」

 遠くから見ていたミカエルとガブリエルが駆け寄っていく

ラファエル 「あ、ガブちゃん、ミカぽん」

ガブリエル 「そうだ、
      おっさん、俺たちにも
      教えてくれよ。」

ミカエル 「オレも、オレも、
     強くなりてぇぞ」

ビック 「ちょっと、ちょっと、待てー!」

ガイアナ 「ビック、その焦り、
     怒りを力に変えるんだ」

ビック 「・・・く、
    ちがーう!」

 楽しそうな子供達の声に誘われ、管理人の爺さんも出てきた

爺さん 「なんじゃ、なんじゃ、
    どうしたんじゃ」

 ドラゴ。また、少し浮いてきた

効果音 『ゴォ、ゴォオ』

○猛特訓

※まだ、つづきます。このページは絶賛執筆中です💦

このページ冒頭に掲載したイラストの原寸版は下記リンクに置いてあります