[漫画]「ガチギレ天使さん」シナリオ(脚本)

ジャンル:SFファンタジー
タイトル:ガチギレ天使さん
あらすじ:今から遥か遠い時代、人は自らを天使と称し空に住んでいた。天使たちは”トビヲ”と呼ばれる謎の怪物達から、度々侵略を受けていた。幼い頃、それに両親を殺された天使の少女ガイアナは、それと闘う。

上記はラフや設定画です(原寸画像へのリンクはページ末にあります
『大空の侵略者編』 のビギニング(Beginning)的な話になります。ガチギレの世界観、背景やキャラクターの位置付けを明確にしたいと思って、いったん『大空の〜』より先にこちらを描いてます。


表記ルール

  • ○…場面
  • ナレーション…漫画で四角囲みになる文
  • 名前「 」…ふきだしのセリフ、*手書セリフ とあるのは、ふきだしに入れない手書きセリフ
  • 名前()…しゃべらず思っているセリフ
  • 効果音『 』… 効果音(漫画で描き文字となる部分)
  • 冒頭インデント行は”ト書き文”。状況を説明する文章で、漫画では絵やコマ展開で表現され、文章では書かない(書いても欄外)
  • ( )は補足事項やメモ。「 」内の( )は”ルビ”

天空

○暗雲

 大空に不気味に広がる鉛色の雲

ナレーション
「人が天に近づき、
 神を恐れなくなったとき、
 災いが天と地を覆い尽くした」
     (大天使遣記1章17節)

 ひとりの天使の少女が、懸命に暗い雲間を飛び続けている。少女の背後からは巨大な怪物が、今にも彼女を喰らおうと襲っている。その巨大な怪物は大きさが20〜30メートル。形状は魚類に似た流線型で、トビウオのような大きな羽で雲間を猛スピードで飛翔してくる。表皮は岩のように荒々しく、厳つい頭部には複数の目があり、眼球は異常な速さでギョロギョロと周囲を探っている。左右に裂けた口は、喉の奥が見えそうな程開き、時折鋭利な歯列をギラリと覗かせる。

 逃げ続けている天使の少女は16歳くらい。鍛え上げられた肉体で、大きな洋弓で武装している

 巨大な怪物の周囲に、無数の小さな異形の者たちが乱舞している。大きさや姿は人の様だが、胡桃(くるみ)の様な歪(いびつ)な頭蓋骨に複数の空洞の眼孔、唇のない裂けた大きな口からは、乱ぐい歯が覗き、喰い散らかした肉片や筋をぶら下げている。餓鬼のように浮き上がった肋骨、バッタのように逆さに折れ曲がった手と足と鋭い爪、昆虫のような羽で彼らは飛び掛かってくる

 異形の者たちの声が空を埋め尽くす

効果音 『ギャア、ギャア』
    『ギャア、ギャア、ギャア』

 無数の叫び声の中から、不気味な低い呻き声が聞こえてくる

怪物 「クウ・・・
    テン・・シ」
   「クウ・・・」
    (*怪物のセリフの書体は古印体で)

 地獄の底から聞こえてくるかのような不気味な声、それは迫る巨大な怪物から聞こえてくる

 彼女は身を捻りながら、必死に異形の者たちからの攻撃を避ける

天使の少女 「くっ!」

 目深にかぶったフードから、鋭い瞳が覗く

 なおも、迫る化け物たち

怪物 「クウ・・・」
   「テンシ」
   「クウ」
   「・・・喰う、天使」

効果音 『ギャア、ギャア、ギャア』

 怪物から更に無数の異形の者たちが飛び立ってくる

 巨大な怪物の腹に無数の異形の者たちが這いまわっているのが見える。彼らは巨大な怪物の体表から飛び立ってくるのだ

 少女は逃げながら、身軽にクルっと身体を反転させると攻勢に出た

天使の少女 「堕ちろォ!!」

 彼女が矢を弓につがえると、矢の先端は複数に割れ、殺傷を目的とした凶悪な形状になった

効果音 『バシュッ!』

 彼女の放った矢が、飛び掛かってきた異形の者の頭蓋骨ど真ん中に命中する

効果音 『ドカッ!』

異形の者 「ギエーッ!」

 なおも矢を放ち続ける

効果音 『バシュッ!』
効果音 『バシュシュッ!!』

 異形の者たちは、強烈な矢によって次々と墜ちていく。しかし、いくら倒しても飛来する異形の者たち

天使の少女 「このぉっ!!」

 その数に圧倒される少女。
 飛び掛かる異形の者の群れにもみくちゃにされ、フードが外れる。綺麗な金髪のおかっぱ頭が現れる。鋭く見開いた目が特徴的だ

 彼女は器用に身体をひねり、クルリ回転すると、逆さに後ろ向きに飛び、矢を放ち続ける。
 弓にからみついている小さな龍が、矢を咥えながら叫ぶ

龍 「数が多すぎる!」
  「矢がなくなっちまうよ」

 龍は背中のケースから矢を咥え、彼女に懸命に渡している

 そのとき、巨大な怪物が大きな口を開けて接近してきた。
 周囲の異形の者たちに気を取られている合間に

効果音 『グァアオオオ』

 怪物が周囲諸共に天使の少女と小さな龍を吞み込もうとする。
 彼らの顔に巨大な岩のような歯列が影を落とす

 絶体絶命

 
 

八年前

○夕焼けの高台

ナレーション 「八年前。」

 丘の上。
 夕焼けに向かって立ち誰かの帰りを待つ幼い天使の少女。
 8歳くらいの金髪のおかっぱ頭だ

 少女の背後、少し遠くに教会が見える。
 日中は教会に預けられていて、今は迎えを待っている様子

少女 「今日も、
    おそいな」

 ぶっきらぼうなしゃべり方。
 鋭く見開いた目が印象的な幼い少女。
 自分の頭より大きな箱を、身体の前に抱えている。箱には、”可愛がってください”と書かれた札と、小さな龍と聖書が入っている

少女 「あっ」

 遠くに何かをみつけた。
 一人の大柄な天使が歩いてきている。30代くらいの大男で筋肉がすごい。肩に大きな荷物を担いでいる。
 少女は怒って大男に言う

少女 「ビック!
    遅いぞ!!」

 大男の名は『ビック』だ

ビック 「すまん、すまん」
    「家族が病気になったって、
     帰っちまった奴が出てなぁ。
     おかげでこんな時間だ」

 ビックが少女の抱えている箱に気づく

ビック 「あん?」
    「なんだ、それは?!」

少女 「拾った!」

 少女が箱を、顔の高さまで上げて、ビックに見せる。
 箱には龍と分厚い本が入っている

少女 「神父さんが、
    かわいそうだから
    面倒見てやれって」

 (背景に神父とのやりとり:回想シーン)
 教会の門の前に捨てられた箱の前に、しゃがむ少女、と、困ったなぁという顔の神父

神父 「ガイアナちゃん、
    天使に必要なものは、
    優しさと愛だよ。」

   「人には親切にして
    あげるものだよ。」*手書セリフ

   「聖書にも、
    『主に信頼して思いやり、
     親切にしなさい』と、
     詩篇37篇3節にあります。」

   「さて、ワシ今日はちょっと
    用事があるんでっと」*手書セリフ

 ペットの箱を少女ガイアナにおしつけ、そそくさと逃げ帰る神父
 (金髪おかっぱの少女の名はガイアナだ)
 (回想:ここまで)

ビック 「えー?!」

ガイアナ 「ダメか?」

ビック「やれやれ」
   「あの神父、
    体よく押し付けやがって」

   ブツブツ

   「ペット禁止じゃ
    なかったかなぁ」*手書セリフ

 最近、住まいを引っ越したばかりで、慣れてない様子のビック

ガイアナ 「暗くなったら、この子は
      野犬に喰われるぞ」

 的確に状況だけ言うガイアナ。可愛いから飼いたいとか、かわいそうだから飼おうとか、そういう認識はない様子

ビック「うーん。
    一晩だけだぞ」
   「また明日、
    神父さんに相談しようっ」

ガイアナ「わかった。」

 ガイアナは神父に言われたから、面倒を見ようとしているだけな感じ。

 夕焼けの中を市場へ向かうビックとガイアナ。
 (画面構図は引きで、夕焼けの丘を歩いていくふたり、ビックはダンボールの中を覗いている。左右に吹き出しを散らせる。)

ビック「なんだそれ、聖書か?」

ガイアナ「この子に紐で結んであった」

ビック「聖書まで教会に捨てていくとは、」
   「やれやれ世も末だなぁ。」
   「飼い主のやつ、
    よほど嫌なことでも
    あったんかなぁ」

 (夕焼けの綺麗な広い空に、蜘蛛の巣のような防空ネットを曳いた飛行船が飛ぶ。怪物の侵入を防ぐための新型兵器であるが、ここでは、飛行船がベールを曳いて飛んでいるような優しいイメージで描く)
 
 

○夕闇市場

 賑やかで活気あふれる市場に入っていくふたり。
 売り子が声をかけてくる。

売り子 「兵隊さん!
    いいの入ってるよー」

 ここエデンで一番大きなマーケットだ、野菜やパンや果物を所狭しと並べられた店が連なり、頭上には飾りがぶら下がっている。毎日がお祭りのような賑わいだ。

売り手 「農場から届いた
     ばかりの野菜だよ」
    「安くしとくよー」

 ビックたちはいつも帰り路に、この市場を通っていくのが日課なのだ。
 遠くからビックとガイアナを見つけ、店主の爺さんが声を上げる。ビックも手を挙げて応えている

店主 「おー、おかえり〜」

 店主はガイアナがお気に入りなのだろう、嬉しそうに言った

店主 「今日もいい子に
    してたかなー」

ガイアナ 「わたしか?
      わたしはいつも
      良い子だ。」

 神父からも「良い子に」とばかり言われているので、そのまま言われていることを口から出している感じ

店主 「新鮮なやつ、
    とっておいたよ」

 袋を嬉しそうにだしてきて、肉や野菜をいれてくれる

ビック 「お、うまそうだなぁ」

 後ろの方で、それを微笑ましく眺めながら、井戸端会議をしているおばさんたち

主婦A 「あの分隊長さん、
     いつもご苦労さんねぇ」
主婦B 「亡くなった戦友との約束だって」
    「施設にも入れないで」
    「お子さん引き取って
     面倒みて
     立派よぉ」

 ビックはとくにはとりあわず、店主の爺さんと話している

ビック 「爺さん、
     また明日な」

店主 「ガッちゃん、
    またねー」

 ガイアナと龍は、井戸端会議を不思議そうにながめている
 
 

○尖塔長屋

 市場のはずれはタワー型のマンションに繋がっている。
 多くの住宅が低層だが、最近建った高層の公団住宅だ、住人たちは尖塔と呼んでいる
 (螺旋型立体長屋参照)

 尖塔の中へ入っていくビックとガイアナ。
 身なりの良い天使たちが巨大な吹き抜けを飛びながら、各家の扉へと向かっている

 内壁に螺旋状に道がついていて、荷物があるビックたちは、そこを歩いて登っていく。飛べる者達の世界なので高いところにも柵はなく、壁にはリング型の綺麗な照明が並び、やわらかく吹き抜け全体を照らしている。
 壁の掲示物をチラチラと見ながら呟くビック

ビック 「ここは、やっぱり、
     ペットは禁止じゃ
     なかったかなぁ」

 おかまいなしな一人と一匹

龍 「コホン」
  「コホン」

ガイアナ 「この子、
      咳してるー」
 
 

○綺麗な部屋

 部屋に入ったふたりと一匹。
 天井には天使の輪を模した照明器具、綺麗な部屋で最近建てられたことが分かる。
 龍の本と結ばれてる紐をといてあげるガイアナ

 龍、拾ったときより少しふっくらと膨らんでいる

 風船のように宙に浮かぶ龍

ガイアナ 「ビック!
      こいつ浮くぞ」

ビック 「そうかぁ。
     前の飼い主は
     珍しいもの好き
     だったのかもなぁ」

 ものすごく適当に相槌をうちながら、電磁調理器のようなコンロに鍋をかけ、テキパキと調理を始めるビック。(コンロは発熱する輪っかが置かれた炎を使わない最新式だ)

龍 「ウッ」

 少し苦しそうな龍

龍 「ケホッ」
  「ケホッ」

 こもった様な、こらえたような咳をする龍
 みつめるガイアナ
 (心配そうにとかはない、ただ見ている感じ)

効果音 『チロッ』

 龍の口の中から、小さい火。

効果音 『ゲホッ』

 唐突に龍の口から炎が吹き出した。

効果音 『ドゴオオ!!!』

 部屋がまるこげになった。
 頭チリチリになったふたり
 (龍はほっそりとした状態に戻っている)
 
 

○尖塔の外

 サイレンが鳴っている。
 『ウゥ〜』

 タワーの外で管理人に、額に汗をかきながら、ペコペコ頭を下げているビック。
 周囲には慌てて避難した住人たち

住人A 「火よ、火」
    「ボヤらしいわ」
住人B 「あら、
     危険でしょ」
住人C 「ねぇ、ここは
     火はダメだ
     ものねぇ」

管理人 「困りますよ。
     そんな物騒なペット」

ビック 「すみません、
     すみません」
    「まさか火を吹くなんて」
    「アハハハ」*手書セリフ

 事態の収拾を図るべく全力を尽くすビック。
 おかまいなしな雰囲気で、横につっ立っているガイアナ、ビックを見上げながら、しっかり龍を抱っこしている。
 龍は相変わらずケホケホと小さな炎を出している
 
 

○平長屋

 夜の古い長屋街。
 完全に夜になることがない天使の世界。夜になって星がいくつかは見えてはいるが、街灯がなくとも周囲を確認できるくらいの明るさがある。
 ここは尖塔と違い、古く生活感溢れる門戸が並ぶ。取り込み忘れた洗濯物が風にふかれ、鉢が道端に置かれている。
 長屋の管理人の爺さんとビックが話をしている

ビック 「夜分にすまない」

爺さん 「まだ、そのまんまに
     してあるよ」
    「ガッちゃん、
     元気してたかい」*手書セリフ

 気さくな爺さんは、満面の笑みで言う

爺さん 「いいよ、いいよ」
    「こんな古いところ、
     借り手がいるわけでなし」
    「ヒヒヒヒ」*手書セリフ

 ビックは最近まで、この平長屋の住人だった。
 尖塔は人気で万人が入れるものではないが、たまたま抽選に当たって入居でき、引っ越していったばかりだった。
 爺さんは借主が戻ってきて内心喜んでいる

ガイアナ 「なんで!」
     「なんでドラゴは
      ダメなの?」

ビック 「高層タワーは
     一度燃えたら
     煙突効果で
     全焼しかねないのっ」
    「って、ドラゴ?」

 (背景で爺さん独り言)

爺さん 「近代建築は
     なにかと
     面倒だよぉ」*手書セリフ

 状況をよく理解していないガイアナ

ガイアナ 「おまえ、ドラゴな!」
     「炎を吹くから、
      ドラゴ!な!」

龍(ドラゴ) 「ゴォッ!」
       「ゴォッ!」

 ガイアナの呼ぶ名前に、嬉しそうに応えるドラゴ

ビック 「ドラゴン、だろ」

ガイアナ 「ドラゴ!
      ファイ!!」

ドラゴ 「ゴォォオオオオオオオッ!」

 すごい炎が周囲の薄暗がりを照らす

爺さん 「ほぉっほっほっ」
    「こりゃあ、すごい」

 ドラゴの炎に興奮する爺さん、困り顔のビック

爺さん 「大丈夫、大丈夫。
     火災保険なら、
     たーんまり
     入っとるからなぁ」
    「ひーひっひっひ」

ビック 「はー、はっはっはっ(汗)」

 燃やしてもいいとばかりに笑う爺さんに、ちょっとひくビック。
 ドラゴは嬉しそうに炎を吐いている
 
 

○翌朝

 朝早くから平長屋の門戸で、表札がわりの看板を立てている、ビックと平長屋管理人の爺さん。
 飛ぶことができる天使たちは、空や遠くからも見えるよう、幅40センチ、高さ1メートルくらいの、わりと大きめの看板を、家の前に出している。
 良い天気

ビック 「これで、よしっと」

 看板には「Bick」の名前と「チラシおことわり」の手書きの紙が貼ってある。
 さっきまで野晒しで倒してあった看板なので多少汚れている

ビック 「また、お世話になります」

 長屋の管理人の爺さんに頭をペコリと下げるビック

爺さん 「はい、はい。」
    「しかし災難だったなぁ、
     せっかく抽選に当たって
     尖塔長屋に入れたってのに。」
    「ひっひっひ」*手書セリフ

ビック 「まったくです。
     まだ敷金分も
     住んでないのに・・・」
    「とほほ」*手書セリフ

爺さん 「今日はワシ。
     暇だから、
     ガっちゃん見とくよ」

ビック 「助かります」

 そう言いながらビックは大きな羽を広げると、飛び立ち仕事へ出かけていった。
 爺さんは日当たりの良いブロックに腰掛け、煙管でタバコを吸い出した

効果音 『ぷくり
     ぷくり』

 輪っかになったタバコの煙。
 その横をぷわぷわと浮いて漂うドラゴ。
 ドラゴには紐がつけてある、その紐を岩につないでいるガイアナ。

 それを少し離れたところから見ていた少年

 少年が遠くから声をかけてくる

少年 「それ、」
   「紐でゆわってあるのー?」

 ガイアナがそれに気づいて応える

ガイアナ 「寝てるうちに
      浮いてくるのー」

 少年はそれを聞くと近づいてきた

爺さん 「尖塔の子かい?」

少年 「うん」

 タワーを指差し応えた

少年 「ラファエルっていいます」

 礼儀正しい姿勢で挨拶する少年ラファエル

爺さん 「そうか、
     ラファエルくんか」
    「カッコいい名だな」

ラファエル 「大昔の偉人ですよね」
      「キラキラネームだから。
       僕は好きじゃないです」

爺さん 「ホッホッホ」
    「そんな見方もあるかな」
    「アイス食べるか?
     ちょっと待ってろ」
    「よっこいしょ」*手書セリフ

 まだ片付けが住んでおらず外に出っぱなしのビックの冷蔵庫から、勝手知ったるといった感じでアイスを出す爺さん

ガイアナ 「わたしも!」

 ガイアナはビックの看板を引きずって動かしている、弓の練習の的にするのだ。ここに住んでいたときは毎日それをしていた

 アイスを咥えながらの3人

ガイアナ 「教会に置いてあった
      箱にいたときは、
      重い本に縛りつけてあったの」
     「たぶん飛んで
      いかないように」

ラファエル 「この辺じゃ
       見ない生き物だから」
      「どこかから
       飛んできたのかな」

ガイアナ 「風船みたいに」

ラファエル 「うん、
       風船みたいに」

ガイアナ 「お腹をなでて
      あげると喜ぶよ」

ラファエル 「へー」
      「ぼく、初めて見た」

ガイアナ 「わたしも」

 ドラゴの腹を撫でるふたり。
 気持ちよさそうにぷかぷか寝ているドラゴ

ドラゴ 「zzzzz」

 いつの間にか、爺さんもふねをこいでいる

爺さん 「zzzzz」

 ガイアナは弓をいじっている。
 ラファエル、ガイアナのことが少し気になって聞いてくる

ラファエル 「おまえのお父さん、
      でっかいな」

ガイアナ 「見てたの?」

 ガイアナ、弓を引きながら。
 鋭い目で看板を狙う

ラファエル 「え、う、うん」

 はっきりとそう言われて、ちょっと気まずくなった少年。自分は遠くから見られていたらいやだと思うのだろう。
 ガイアナは気になっていない様子

ガイアナ 「あれは、父さんじゃない。」
     「死んだの、お母さんも」

効果音 『ダン!』

 ガイアナの放った矢がビックの看板に刺さる。
 はっきりした「死」という言葉を聞いて、緊張したラファエル

ラファエル 「そ、そうなんだ」

ガイアナ 「うん」

 ものおじしないガイアナに、どこか心を惹かれるラファエル

ラファエル 「お、お父さんはさ、
       どんな人だったの?」

ガイアナ 「いい人」
     「おもしろくって」
     「お土産持って
      きてくれたり」

ラファエル 「・・・ふーん」

 さびしくないのかな。自分なら嫌かもしれない、そんなことを思いながら

ラファエル 「さびしくは・・・」
      「ないの?」

ガイアナ 「いそがしいからな」
     「わたし、
      強く
      ならなくちゃ」
     「いけないし」

 看板まで走り矢を抜くガイアナ。
 ずっと練習してきたのだろう、看板にはよく見ると矢が当たった無数の傷がある。
 また、弓に矢をつがえて狙う。指は擦れ赤く荒れている

 両親を亡くしたというのに、悲しみの中にとどまらず、一生懸命に前へと進むその姿勢に、子供ながらにラファエルは静かな衝撃を受けた。自分なら無理だと思った

ラファエル 「・・・」

 (ラファエルがのちに、またガイアナに会いに来たのは、この会話がきっかけとなる。印象的なカットに)

 広々とした空と空き地。
 良い天気。
 そこにいるのはガイアナとラファエル、そして昼寝をしているドラゴと爺さんだけ。
 (引きのカットで広々感を出す)

遠くから少年たちの声 「ラファエルー」

 男の子二人がラファエルを呼んでいる。銀髪の丸い顔と、長い黒髪の吊り目の少年だ

ラファエル 「あ、ガブちゃんと、
       ミカぽんだ」

 ガイアナたちの方を気にしながらも、少年たちのいる道の方へ行くラファエル
 (ふわりと軽く飛んでいく)

ガブリエル 「なにやってんだよ、
       もう夕方だぞ。」
      「なんか
       おもしろいもんでも
       あったのかよ」*手書セリフ

 やんちゃな銀髪の少年は、始終からかうような表情で、ラファエルがさっきまでいた方向を覗き見るように言った

ミカエル 「早く帰らないと
      怒られるよ」
     「ヒヒヒ」*手書セリフ

 ミカぽんと呼ばれた黒髪の長髪の少年ミカエルは始終薄ら笑い。
 全員自分たちのキラキラネームが嫌で、基本あだ名で呼び合っている。
 3人とも身なりが良い、尖塔の裕福な子たちだ

ガブリエル 「なんだ、
       知り合いか?」

ラファエル 「ううん」

ラファエル 「龍がいたんだ」

 なんとなく、気になった少女のことを言わずに誤魔化したラファエル。
 ガブリエルは平長屋を見ていう

ガブリエル 「ボロっちいなぁ」

ミカエル 「あそこ、
      人住んでんの?」

ラファエル 「みたいだね」

 ガブリエルとミカエルが平長屋をボロいとバカにしだす、親たちがいつもそんなことを言っているのだろう。

ガブリエル 「ああいうのって、
       その日暮らしで、
       計画性がないからなんだよ」
      「父さんたち言ってたぜ」*手書セリフ

ミカエル 「ヒヒヒ」*手書セリフ

 ラファエルも強がって合わせてボロだとか何か言おうとしたとき、ガブリエルとミカエルの背後に大男の影が映る。
 分隊の仕事から帰ってきたビックだ

 買い物を済ませて帰ってきたのだろう、大きな袋を抱えている

ビック 「ジャマだぞ」

 往来に広がってお喋りしている3人が道を塞いでいるので、大男が通れないだけなのだが、なんとも威圧的なシチュエーション

ガブリエル 「お、おっと」
ミカエル 「ひえっ、ヒヒヒ」
ラファエル 「す、すいません」

 ガブリエルは横へそれ、ミカエルはさっと飛んで避け、ラファエルはおじぎした。
 3人がどいて道が空き、ビックは悠然とすれ違っていく

ラファエル 「・・・」
ラファエル (さっきの子、この人に育てられてるんだ)

 ビックを上目遣いにチラと見るラファエル

ガブリエル 「でけぇ・・・」

 強靭な肉体に、圧倒される少年たち。
 ビックの目は、道に広がって塞ぐんじゃねえよ、と睨んでる

ビック 「なんだ、あの三バカ」
    ブツブツ
    「ボロで悪かったな」*手書きセリフ

 平長屋の悪口、聞こえていた。
 尖塔の方へ逃げ帰る少年天使たち

ガブリエル 「み、見たか、
       あのぶってえ腕、
       金の腕章ッ。」
      「あれ、分隊長だぞッ」

ミカエル 「こえぇ、こええ、ヒヒ」
 
 

○夕支度

 ビックとガイアナ、外で焚き火を囲みながら。
 鍋が美味しそうだ。

ビック 「うっはー、うまそうにできたぞ」

 引越し先から戻ってきたばかりなので、荷物はまだ外に出っぱなし。
 野営には慣れているビック、鍋料理をよそった取り鉢をガイアナに渡す

ビック 「ほれ、
     やけどすんなよ」

ガイアナ 「はふ」
     「ふは」

ガイアナ 「ビックの
      お父さんは
      どんなんだった?」
     「でかかったか?」

ビック 「はぁ?」

 薮から棒な質問に困惑するビック

ビック 「なんだ、薮から棒に」

 ガイアナは午後のラファエルとの会話の続きのつもりなので、藪から棒ではないのだが、ビックからしたらそんなの分からない

ビック 「俺は・・・、」
    「知らねえんだ」

 こいつ、今までそんなこと一度も聞いたことないのに、と思いつつも、一応、質問にきちんと応えるビック

ビック 「どんな人・・・か。
     どんなだったのかなあ、」
    「小さいときのことは
     正直あんまし
     ハッキリとは
     覚えてないしな」

 ズズズー、と旨そうにお椀をすするビック

ガイアナ 「そうか」

 ガイアナ、ドラゴにご飯をあげながら

ガイアナ 「ビックは
      父さんも母さんも
      知らないのか」

 ガイアナは昼間のラファエルのように、ビックの生い立ちを自分と比べて可哀想だ、だとか、思う神経は持ち合わせていない、ただ聞いている感じ

ビック 「ああ」

ガイアナ 「さびしくは
      なかったのか」

 昼間に聞かれたことを、そのまんま聞いてる感じ。
 インプットされたものをアウトプットしてるだけ、といった感じ

ビック 「ああ、別に」
    「いろんな人に
     世話になったし。」
    「まぁ、おれには
     この国が家みたいな
     もんだって感じだ」

 ほのかに暗くなってきた空には星が瞬いている

ガイアナ 「そうか
      ビックは、
      その家を守るために
      守護分隊に
      入ってるのか?」

 おかわりをお椀によそうビック

ビック 「え?
     べ、別にそんなこと」
    「考えたこともねえが」

 なんで今日はこいつこんなことばっか聞くんだ。
 ・・・昼間の三バカのせいか、と気づくビック

ビック 「あ。」
    「あの尖塔のガキか?!」

ガイアナ 「ラファエルか」
     「うん
      あいつは
      おとなしくて
      いいやつだぞ」

ガイアナ 「いろいろ聞いてきてな」

ビック 「金もちのガキは
     なんかこう
     いけすかねえんだよなぁ」
    ブツブツ
    「ボロだなんだと・・・」*手書セリフ
    「アチチチ」

ガイアナ 「やけどしないように
      ふうふうして
      食べるんだ」

ビック 「はーい、はい」

 呆れながら、生返事で応えるビック
 ドラゴはうれしそうに炎を吹いている

ドラゴ 「ボォっボォっ」

 まぁ、ゆうなれば、国が家で、そこに住む人々が家族、それを守るのは当然のことだった。もっとも、そんな風にカッコつけて喋ることのないビックだった
 
 

○夜

 夜とはいっても薄暗くなるだけで、完全に闇にはならない天使の国。(太陽は水平線ギリギリまで沈むが、それ以上は沈まない、地球の闇半球に入り込まない範囲で軌道都市全体が大空を移動をし続けているためだ)

 部屋の中のハンモックで就寝中のガイアナ。(はだけた毛布、ふわふわとした羽、見た目だけなら、まさに天使、という感じ)
 部屋はまだ整理されておらず冷蔵庫も外に出たままだが、ガイアナの寝床だけは先に用意した様子

ガイアナ 「・・・お母さん」

 寝言を言っている。ただ、どこか苦しそうだ。
 悪夢を見ているガイアナ

 (枠線なし断ち切りまで使ったカットで:ここから回想シーン)

ガイアナの母 「ガイアナ!ガイアナ!」

 ガイアナ目線で、こちらへ手を伸ばし駆け寄ろうとする母の姿。
 金髪の長い髪、細身だが鍛えられた身体、目元はどこかガイアナに似ている

 周囲で異形の者が叫ぶ

異形の者 「ギィイイイイイ」

 異形の者は、ゆがんだ頭蓋骨、複数の空洞の目、バッタのような逆に折れ曲がった脚、昆虫のような羽。
 ガイアナは叫ぼうとするが、声が出ない。異形の者の鋭い歯が喉と腹に食い込んでくる。異形の者は、その鋭い牙で幼いガイアナを咥えているのだ。

ガイアナ 「・・お、お母さん・・・」

 ガイアナの口から母を呼ぶか細い声と血が吹き出した。母は必死で駆け寄り娘を取り戻そうとするが

効果音 『バシュッ!!』

 血飛沫と暗黒

 (引きのカットでガイアナが、喰いちぎられたと分かるシーン。画面左側に母、右側にガイアナと化け物)

 絶望と怒りの入り混じった母の顔のアップ

 (先ほどの引きのカットで、今度は画面左側にガイアナ、右側に異形の者に母が噛みつかれている)

 異形の者の大きな口が、母の喉から胸、腹にかけて鋭い歯を食い込ませている。母は先ほどと装束が少し異なり、武装していて頭上にはリングが見える。手に持った鋭く大きな刀は、その切っ先を異形の者に突き刺し貫いている

 母が口元から吐血した、異形の者は渾身の力で母を噛みちぎった

 (引きのカットで母が喰いちぎられているのが分かるシーン)

 異形の者は剣で貫かれながらも、耳まで裂けた口を開き、嘲笑うように雄叫びをあげる

異形の者 「ギィイイイイイヤヤヤヤアアアアッ」

 絶望するガイアナの表情のアップ
 (ガイアナの顔には遡上痕が見て取れる)

 辻褄の合わない時系列(時間遡上によるもの)

 崩れ落ちる異形の者と母の向こうから、更に大きな怪物が飛翔してくるのが見える。20〜30メートルを超えるの魚のような身体に、複数の目、複数の羽。
 その巨大な怪物が今度はガイアナを襲う

巨大な怪物 「ギィイイイイイイイイ!!!」

 大きく口を開け地面ごと呑み込もうと突進してくる。
 絶体絶命かに見えたその時。

効果音 『ズダーン!!!』

 天から降ってきた大柄な戦士がそれを阻止した。
 巨大な怪物には大きな槍が垂直に刺さっている。
 戦士は周囲の化け物たちを一掃した。
 暗雲の中、背後から射す一筋の陽光。
 (戦士のシルエットは若い頃のビック)
 戦士は寂しそうにガイアナの母の亡骸を見つめ立ち尽くしている
 (周辺には無惨に息絶えた母、刀が突き刺さった化け物と、頭部を巨大な槍で粉砕された巨大な化け物)

 (回想シーンここまで、以降は枠線入りの通常コマ)

 ハンモックのガイアナの顔のアップ。
 (仰向けで、目を見開き、天井を凝視している。天井から見たカット)

ガイアナ 「はぁ、はぁ、はぁ」

 小さな手に毛布を握りしめている。恐怖で小刻みに震えている
 
 

○焚き火

 家の外、先ほどの悪夢から覚めたガイアナが、静かに家から出てくる。

 外ではビックが焚き火で湯を沸かしている

ビック 「悪い夢か」

 ヤカンに手をかけながら、そっけなくビックが聞く

ガイアナ 「うん」

ビック 「昼間、いろいろ思い出したからな」

 炎に枝を焚べるビック

ビック 「昔のことには、」
    「思い出した方がいいことと、
     たいして良くないことがあるな・・・」

ガイアナ 「ビックもか」

ビック 「ああ・・・」

 この大男も、良くない夢で起きたところだったらしい

ビック 「寝る前に、昔話なんか
     しなきゃよかったよなぁ」*手書セリフ
    ブツブツ

 ビック頭をかきながら

ビック 「紅茶でいいか」

ガイアナ 「うん」
     「ありがと」*手書セリフ

ドラゴ 「ZZZZZ」*手書セリフ

 ドラゴは紐に繋がれ、上下しながら寝ている

 静寂と優しく彼らを照らす焚火の炎

 その静寂を破るように轟音が轟いた

効果音 『ドゴォオオオオオン』
    『ビリビリビリ』

 地響きが平長屋全体を揺らす

 弾かれるように立ち上がるビック。
 轟音の方角を見ると、尖塔から黒煙が立ち上っている

ビック 「!」

 鬼気迫る顔で黒煙の方角を凝視するビック。
 (尖塔のアップ。根本に巨大な化け物の羽)
 尖塔下部が崩壊している。
 瓦礫の中に怪物の羽がハッキリと見える

ビック 「まさか?!」
    「こんな安全な区域で」

 (上空からのカット)
 尖塔下部に巨大な生き物が横たわっている。サイズは巡視艇くらいはあるだろう、20〜30メートルを超えるの魚のような身体に、複数の目、複数の羽が見て取れる。

 街に鳴り響き出すサイレン

効果音 『ウゥ〜』
    『ウゥ〜』

 騒音が街全体を包み込む

ビック 「バカな!」
    「こんな内地で、
     出るわけがッ」

 近隣の住民も轟音に驚いて家の外に出だしてきている

爺さん 「何事だ?!
     ビックさん!!」

 長屋の管理人の爺さんもナイトキャップに枕を抱え、心配そうに、おろおろとビックに「さん」づけで叫ぶ。今は店子としてではなく分隊長のビックに聞いている

ビック 「爺さん、皆を家から出すな!」

 ビックは急いで身支度を整えながら叫ぶ

ビック 「ガイアナを頼んだぞ!」

爺さん 「わ、わかった」

 弾かれたように武装し、飛び立つビック

爺さん 「き、気をつけてな!」

ガイアナ 「・・・」
     ガクガク
     ガクガク

 爺さんの横で、立ち尽くし、震えるガイアナ

ガイアナ (震えるな、
      震えるな)

 意に反して恐怖に怯える身体を、どうしてだ、震えるな、と拳を握りながら、必死に平静を保とうとしている
 
 
 

被災

○尖塔周辺

 倒壊した尖塔下部に、巨大な怪物が横たわっている。その巨大な羽のある魚のような形をした身体には、複数の大きな槍が突き立てられており、羽は折れ曲がり、頭部にある複数の目は、光を失い虚空を見つめている。今は屍となったその大きな口器からは喰われた者の体がぶらり垂れ下がり、周囲には複数の遺体が散乱している

 近隣住人が遠巻きに不安げに見つめる中、大袈裟な装束の兵隊たちが、その遺骸にワイヤーをかけ移動させ始めている。
 周囲には瓦礫が散乱し、住人は皆混乱し怯えきっている

住民たち 「ト、トビヲだって?!」
     「こんな街中でか!?」
     「空襲警報なんか、
      なかったぞ!!」

 守護分隊の隊員ふたりが、駆けつけたビックに気がついて駆け寄ってくる

隊員A 「ビックさん!」

ビック 「どうなってる」

隊員A 「 どうも、こうも、」
    「トビヲのようですが!」

隊員B 「我々も、
    駆けつけた時にはもう」

 引き上げられていく巨大な遺骸を仰ぎ見ながらビックが言う

ビック 「死んでるのか」

隊員A 「ええ、あの大槍で」

 遺骸に突き刺さる大げさな装飾の巨大な大槍

隊員B 「王族の近衛師団です。」
    「たまたま近くを飛行中に
     あれを発見し制圧したと
     言っていました。」

隊員A 「あいつら負傷者の救出そっちのけで、
    化け物(トビヲ)を回収していましたよ」

 気に入らない、といった風情でビックが吐き捨てる

ビック 「えらく、タイミングが
     良すぎるじゃないか」

 いつもの市場から尖塔へと入っていく煌びやかなエントランスのあった付近が、今は無惨に倒壊している。飾りや照明が周囲に散乱し、瓦礫の下に尖塔の住人の遺体が見える。尖塔は下段の数階分が潰れ全体が大きく傾いており、残った塔の上部には火の手が迫っている

ビック 「塔の消火は後まわしだ、
     残っている塔上部から
     生存者を救出しろ」

 苦々しくトリアージの指示を出すビック。指示を受けた隊員たちは慌ただしく消防や救急と連携し対応していく

隊員たち 「空襲警報も鳴らずに、
      いきなりなんて」

     「こんなこと、
      ありえないですよ」

     「ここ六区が『エデン』と
      呼ばれるのは、
      外周に警戒し周回する
      島がいくつもあって、」

     「空襲前には必ず
      サイレンが鳴るし、
      壕へ避難する時間も
      あるからなのに」

 瓦礫の柱を馬鹿力でどかし、燃え盛る周辺を見渡し確認するビック

ビック 「・・・。」

 何か奇妙なものを感じている。
 その時、付近から貨物機が垂直に飛び立った。回収した化け物を何処かへ運ぶのだろう。機体には近衛師団のマークが威圧的に飾られている

効果音 『ドゥドゥドゥ』
    『ドドドドドドドド』

 風で周囲の瓦礫が舞い上がる。ビックがその貨物機を睨み見ながらつぶやいた

ビック 「こっちには、
     興味なし、か。」

 隊員たちに重ねて指示を出すビック

ビック 「負傷者の救出を急げ」
    「念の為、レーダーや警報も
     再確認しておけ」

隊員たち 「はいっ!」

 隊員Bが気に掛かることがある様子で、ビックに歩み寄る

隊員B 「あの、」

ビック 「なんだ、
     どうした」

隊員B 「ふつうトビヲは、
     腹部に異形個体が
     びっしり張り付いてます」
    「共食いが常で、
     表皮は傷だらけ、」
    「なのに、あれは
     やけにツルツルで
     ヌメヌメしていて、」
    「遠くから飛んで
     きたようには…」*手書セリフ

 自分の知識と状況からは、非常識な答えしか見つからない、そんな不安げな顔で隊員Bは最後の言葉を濁した

隊員B 「まるで・・・」

ビック 「ここで孵った、」
    「そう言いたいのか」

 現場に着いたときから、ビックも奇妙さを感じとっていた。
 飛翔して突入してきたにしては、尖塔下部の損壊が激しくない。普通なら塔は完全に崩れ落ち、地形は衝撃でクレーターのようになるはずだが、ここは下から盛り上がったようになっている。まして警報もレーダーも音無しの構えときている

隊員B 「妙な話だと、
     私も思いますが」
    「まるで突然・・・、
     ここに表れたような」

 その会話を切り裂くように、少年の叫び声が響く

少年の声 「お父さん、お母さん!!」

救急隊員 「子供を離して」

看護婦 「さぁ、」

 看護師が横たわっている男女から子供を遠ざけようとする

少年 「いやだよお!」
   「いやだぁ!!」

 少年の横では少女が嗚咽している

少女 「エッエッエッ」

 救急隊員が首を振って、合図してくる。
 男女は死んでいる。泣きつく少年と少女は、彼らの子供だ

 少年は夕方にビックがみかけた子、ラファエルだった。横で嗚咽している少女は妹らしい

ビック (くそ・・・)
    「なんて夜だ。」
 
 

○翌朝、第六区守護分隊基地

 中央政府の飛行船や貨物機が所狭しと駐機している。
 ビックたち六区(エデン)の守護分隊の隊員は、内勤の者も含めて総勢20名程度。昨夜から徹夜で事態収拾に当たってきた疲れが見える。
 その後ろには、中央からきた兵たち100余名が並んでいる。この中隊規模を率いる近衛兵が、主に六区の分隊員たちへ、今後の予定やらを説明している。やんわりと説明というが命令だ。

近衛兵 「諸君らの懸命な活躍により、
     昨晩の被害は最小限に抑えられた。」

    「今後の事態収集は、
     我々中央直轄の兵が当たる。」

    「君たち六区の諸君には、
     今まで通り、通常の歩哨活動を
     行ってもらいたい。」

 通常任務のみと言われ、六区の隊員の一人が異を唱えた。若い隊員で、階級への配慮が苦手なタイプだ

若い隊員 「我々も、広範囲の索敵に
      参加すべきなんでは。」
     「本当に周辺空域、
      安全なんですか?」

 近衛兵が迷惑そうに応える

近衛兵 「ここ六区『エデン』よりも、
     外周の第七区や八区、」
    「そして第九区の『煉獄』からも、
     トビヲ発見の報告は受けていない。」

    「君たちの監視活動にも、
     問題はなかった。」

    「昨晩のトビヲは、
     捕捉不能な個体だった。
     そういうことだ。」

若い隊員 「そんなことッ」

 そんなことを言っているんじゃない。そう反論しようとする若い隊員の肩に、ビックが手を置いて制した

ビック 「やめとめ」
    ボソ
    「それ以上、食い下がると
     謹慎にさせられるぞ」

    「なんだかんだ難癖つけて、
     俺たちのせいにされた挙句にな」

 後ろに立っている隊員たちの顔には、昨晩からの徹夜作業による疲れが表れている(ビックは全員のことを考えている)

近衛兵 「周辺空域の警戒は今まで通り。
     第七区、八区が中隊規模で当たる。」

    「なお、今回の事故の被災者へは、
     すでに閣議で手厚い補償が
     決定している」

 近衛兵は冷徹なままの目で、若い隊員を見ると言った

近衛兵 「あまり事を荒立てないよう、
     お願いできないかね。」

 うすら笑いすら浮かべているようにすら見える。
 気に入らない若い隊員。冷静に諌めるビック。
 
 

○詰所

 基地内の建物。
 ドーム状で開口部が大きく広々としている。航空機のハンガー(格納庫)をすこし小さくしたような建物。奥には軌道都市全体を模した戦略地図がある。ここが六区の分隊員たちの詰所だ

 隊員たちが入ってくる。先ほど近衛兵にくってかかった若い隊員も、石っころを蹴飛ばし毒吐きながら入ってくる

若い隊員 「なんですか、あの人。」ブツブツ

ビック 「通常任務と言われたら、
     通常任務だ」

 ビックが諭すように言った

ビック 「副長!」

 ビックにそう呼ばれた昨晩の隊員Aが全員に指示を伝える

副長 「昨晩からの、
    皆の対応は完璧だった。」
   「後は、近衛諸隊が
    中心となり処置を講じるため、」
   「我々は通常の任務に戻る。」

 疲れ切った隊員たちから、安堵のため息が漏れる

副長 「この後24時間だけ、
    人員をいつもより倍に。」
   「それ以外は
    順次、休憩を
    とるように。」

ビック 「手の空いている者は、
     家族に顔を見せてこい」

    「休むのも仕事だ。」

 ビックは隊員たちそれぞれを気遣って、そう付け加えた。

ビック 「いつでも
     戦える身体に
     しておけ」

 若い隊員の背中をポンと叩いた。戸惑う若い隊員

 詰所の奥の方で、昨晩の隊員Bが考え事をしながら、戦略地図を見ている

 軌道都市は中央の零区から外縁の九区まで、複数の浮き島が太陽を周る衛星ように周回している。島々の周回軌道は真円ではなく、数箇所で交差する楕円軌道を描いている。
 地図には、中央の島に「零」、外縁に向かって「第壱区」「第弐区」・・・「第六区」、そして一際大きな「第七区」、「第八区」があり、一番外周の島に「第九区」との記載がある。(第六区には Eden、第八区には farm、第九区には Purgatorium と俗称が手書き筆記体で書かれている。九区の外側には無数の黒いトビヲ(怪物)が描かれている。各地区の周囲には防空ネットを曳いた飛行船も描かれており、怪物の侵入を防いでいることが分かる地図)

隊員B 「昨夜のトビヲ・・・、
     外周の島やここエデンの警報に、
     全くかからないなんてこと、
     あるんでしょうかね」

 ビックが疲れた身体をどかっと長椅子に落とす

ビック 「さぁな」

 遠くを眺める目でつぶやく

ビック 「ただ、」
    「オレ達はあまりに、
     戦ってる相手のことを、
     知らなさすぎる。」

 やっとひと段落。疲れが顔に浮かぶ、遠くを眺めるビック。
 「ま、そうですね」といった顔の隊員B
 
 

○墓地

 被災者の葬儀。
 西洋式で黒い棺が二つ。
 ラファエルの両親の葬儀が墓地で執り行われている。参列者を限定した家族葬で、棺の前にラファエルと妹が立っている。ラファエルたちの後ろには彼らの親族が20名ほど。皆よい身なりをしている。他に、周囲に近衛兵を含めた中央政府関係者が10余名。近衛兵の言った手厚い補償が見て取れる。

 ラファエルと妹は、泣き腫らした顔で立っている。
 妹が嗚咽を漏らす

ラファエル妹 「エッ、エッ・・・」

 妹の肩を親戚の叔母さんが抱く。ラファエルは泣くのを堪えながら妹の顔を見て呟く

ラファエル (僕が強くならなくちゃ、
       強くならなくちゃ・・・)

 哀悼の空砲が鳴り響く

効果音 『ターン・・・』

 青空にやさしくベールのような雲が、寂げに広がっている
 
 

○朝練

 朝、ビックの家の看板。
 弓矢の的が掛けてある。
 中央付近に矢が何本か刺さっている。

効果音 『ギリリ・・・』

 ガイアナが弓を引き絞っている

 弓を持つ手の親指で矢を支え、弦を親指で引く、古代モンゴルの馬上弓に見られるサムドロー(親指引き)スタイルだ。小さい体でも長い矢を引くことができ、周囲の障害物にも当たりにくく、素早い速射が可能だ。戦闘中に飛翔しながら弓をつがえる必要のある守護分隊弓兵独特の射法をビックが教えている

効果音 『タン!』

 放った矢は、的の真ん中に命中した

ビック 「弓を持つ手は、
     打つと同時に
     緩めて返す」

    「また力んでるぞ。
     放った後の弓の
     回転を妨げない」

 家の外には斧や槍が立てかけられている。
 ビックは自分の装備のメンテナンスをしながら、片手間にガイアナにフォームの注意をしている

ガイアナ 「ちゃんと、
      当たってる!」

 何がいけないのだ、ちゃんと当たってるぞと、反論するガイアナ

ビック 「この距離ならな」

    「弓を最後まで、
     コントロールし続けるのが
     大切なの」

    「距離が延びれば、
     わずかな矢の蛇行が
     風の影響を受ける」

 おまえが力んででも全部当てようとするのは知っている、だが実戦で飛翔しながら弓を扱うときは、弓も矢も身体の一部にならなければならない。と、ビックは的の方はあまり見ていない

効果音 「ダン!」

 また矢は的のド真ん中を貫いた

 その様子を、少し離れた物陰から二人の少年が観察している。
 先日の三バカのうちの二人、ガブリエルとミカエルだ

ガブリエル 「今度こそ、
       当たらない方に
       1ドル!」

ミカエル 「ヒヒ、また当たるよ」
     「だってさっきから、
      一本も外してないじゃん」

効果音 「ダン!」

 またも的の真ん中を貫くガイアナの矢

ガブリエル 「く、くそっ」
      「くそ」

ミカエル 「ヒヒヒ」
     「どうして、そう
      逆張りするのさ」

     「ガブちゃんは
      根っからの
      ギャンブラーだねぇ」
     「お小遣い全部、なくなっちゃうよ」*手書セリフ

 ガブリエルから手にしたコインをジャラジャラしながら笑うミカエル

 ガブリエルがふと悲しそうな顔になって言う

ガブリエル 「最近、ラファエルに
       声かけてないなぁ・・・」

 子供ながらも、どう声をかけたらいいか、と困惑と寂しさの入り混じった声

ミカエル 「・・・あんなこと、
      あったしねぇ」
     「ママもかかわるなって」*手書セリフ

ガブリエル 「あいつの
       お父さんとお母さん。
       ふたりもいっぺんに
       死んじゃうなんてなぁ」

 しんみりする二人

効果音 「ダン!」

 またも、矢が的の中央に刺さった。
 悔しがるギャンブラーガブリエル

ガブリエル 「くぅ~、
       次こそ!!」

      「全額だ!」
      「今までの全額、
       賭けろ!!」

ミカエル 「ヒヒヒ」
     「いいよ。
      命中に全額」

ガブリエル 「外す方に!」

 もはや、擦りまくって冷静に考えることができていない

 しかし次の瞬間、今日初めての事が起こった

効果音 「カーン!」

 矢が的をかすめ、看板の端に当たり跳ね飛んだ。
 今日初めて的を外した矢。
 予想外の結果に唖然とするガブリエルとミカエル

ガブリエル 「は、外れた・・・」

 ガイアナとビックが横を見ている。
 的を見ていない。
 視線の先にはラファエルがいる

ミカエル 「あれ・・・
      ラファくん?」

 ラファエルが思いつめた表情で、ビックの家の前に立っている

 泣きはらした顔、真剣な表情、今にも崩れ落ちそうな自分を必死に立たせている

ラファエル 「ぼ、僕にも・・・」

      「戦い方を、」
      「教えてください!」

 ラファエルは唐突に、そうビックに言った

ラファエル 「お願いします!」

 深々と頭を下げるラファエル

ラファエル 「ぼく、僕・・・。」
      「強くなりたいんです」

 泣きはらした顔をぐしゃぐしゃにしながら、下を向いたまま懇願するラファエル。
 ここ数日、自分だけで耐えてきたのだろう、なんとなくここへ来て、このふたりを前にしたとき、堰を切ったように泣き出してしまった

 先日の被災現場でラファエルを見ていたビックは、ラファエルの肩に手をそっと手をかけ支えてやる

 それをじっと見るガイアナ

 (手前にガイアナの後ろ姿(逆光)、向こうにラファエルとビック)

声 「おまえは泣き虫だな」

 冷静で空気を読まない声がそう言った。
 (ガイアナの頭のあたりに吹き出しをかぶせる)
 人を冷静にさせる声質、その声にハッとさせらるラファエル

ビック 「!」
    「おまえ、なんてことを」

 身内を失った者の気持ちを察しもせず、なんてことを言うんだと、嗜めようとしたビックに、ガイアナは自分は何も言っていないぞと言う

ガイアナ 「わたしじゃない」

 ガイアナはドラゴの方を向いた。
 声の主は、龍(ドラゴ)だった、少し膨らんで浮いている

 火を吹くだけで喋らないと思っていたので、驚いたビックとラファエル

 ドラゴは続けて言った

ドラゴ 「その腹の中の、怯え、
     焦り、怒り、すべてを、
     力に変えろ。」

 小さな龍の口から漏れるチロチロとした炎が、大きな炎に変わった

効果音 『ゴォッ!』

ドラゴ 「両親を亡くしたのは、
     おまえだけじゃない」

    「その子も同じだ」

効果音 『ゴォッ!』

 尻尾でガイアナを指し、頭上から威圧感を持った態度で炎を吐きながら言うドラゴ。
 ガイアナに拾われてから、彼らが話していた言葉を聞いていた。
 ドラゴは火を吹く度に、だんだんと萎んでいき、最後は地べたにぺたんと着地した

効果音 『コォ・・・
     ぷすんぷすん』

 人の言葉を喋る動物など初めて見た、と、気味の悪いものを見るようなビック

ビック 「な、なんだこいつ」
    「しゃ、喋るのか・・・」

ガイアナ 「ビック、怖がらなくていいぞ、
      その恐れを力に変えろ」

ビック 「はぁ?!」

ドラゴ 「オウムだって
     しゃべるだろう?」

 当然だという風にドラゴが言いながら、また少し浮き上がってきた

ビック 「そ、それは、ちょっとちがうだろうっ!」

 遠くから見ていたミカエルとガブリエルが駆け寄っていく

ミカエル 「なんだ、なんだ?」

ガブリエル 「喋る龍だってよ、
       なんか、すげー」

 駆け寄ってきた二人を見つけたラファエル

ラファエル 「あ、ガブちゃん、ミカぽん」

 頭を搔きながらガブリエルとミカエル

ガブリエル「あんなことあったし、
      声かけづらいじゃん」

     「なんか、ゴメンな」

ミカエル 「無理やりにでも、
      遊びに行くべきだったかも」
     「メンゴ、メンゴ」*手書セリフ

ラファエル 「ううん」
      「僕こそ、なんか・・・」

 ラファエルの心が少し軽くなった

ガブリエル 「そうだ、
       おっさん、俺たちにも
       教えてくれよ。」

ビック 「お・・・、おっさん・・・」

ミカエル 「オレも、オレも!
      強くなりてぇぞ」

 喋る龍に意外な練習参加者の増加に困惑のビック

ビック 「ちょ、ちょっと、
     ちょっと、待てー!」

 間髪いれずに指摘するガイアナ

ガイアナ 「ビック、その焦り、
      怒りを力に変えるんだ!」

ビック 「な!なんでオレが!!」*手書セリフ

    「・・・く、
     ちがーう!」

    「そうじゃなーい」*手書セリフ

 楽しそうな子供達の声に誘われ、管理人の爺さんも出てきた

爺さん 「なんじゃ、なんじゃ、
     どうしたんじゃ」

 ドラゴ。また、少し浮いてきたので火を噴きだした

効果音 『ゴォ、ゴォオ』

 (楽しそうな遠景。遠くから見た引きのカットで。)
 
 

○昼下がり

 ビックの家の前。
 長屋の一番端にあるビックの家の前には、広い空き地が広がっている。
 ラファエルが弓を引いている。
 ビックが横に立って教えている

ビック 「自然に、」
    「放す」

効果音 「スタンッ」

 ラファエルの放った矢が的に吸い込まれるように刺さった

ガブリエルとミカエル 「おぉ、うまいじゃん」

ビック 「弓を持つ手は、
     力まず返す」

 それを横目で見ながら練習しているガイアナが、少し口をとがらせ不満そうに言う

ガイアナ 「ラファエルには、
      大きい弓をあげたんだな」

 自分に渡されている弓と比べながら

ガイアナ 「わたしのより
      おっきいぞ」ブツブツ

ビック 「ラファエルは背もあるし、
     腕も長い、おまえにアレは
     ちょっと大きすぎる」

    「ラファエルの弦は、
     初心者用に緩めだ」*手書セリフ

 ビックが自分用の弓を出してきた、硬い弓弦(ゆみづる)をかける。強い弦で張るにはかなりの筋力が必要なため、彼の大きなガタイの筋肉がメキっと盛り上がる

 弓を構えてみせる。両端にリングがついている守護分隊の実戦用の弓だ。矢もガイアナの練習用のものと違って大きい。

ビック 「矢は2本の指で持って引いていい」

効果音 『ギリリ』

ビック 「その方が短距離戦ではパワーを乗せやすいし、」
    「実戦では飛び回りながら矢を放つからな」

 手慣れた扱いで、弓を横に構えた場合の引き方も見せる

効果音 『ギリッ』

ビック 「ガイアナのように、
     一本指で大きく弦を引くには、
     慣れないと、矢が蛇行する」

 弓を立て大きく引く姿勢もみせる

効果音 『ギリリリ』

ビック 「あいつくらい上手くなれば、
     意識しなくとも自然に
     矢を放せるようになるぞ」

効果音 『ビュッ』

 矢を放った

効果音 『ズドン!』

 的の真ん中少し左を、重々しく矢が貫いた

ガイアナ 「ビックはいつも
      少し左にブレるな」

 上手いと言われて気をよくしたガイアナが、腰に手をあてコーチのように言った

ガイアナ 「うむ、」
     「わたしが教えてやるぞ、
      ラファエル」

ラファエル 「ありがとう、
       ガイアナ」

 ビックがゆっくりと弓を引き、その通りにラファエルも弓を引く

ビック 「上で構えて、
     そのまま下ろす。」

    「どうだ、」

    「気持ちが
     落ち着いて
     くるだろう」

ラファエル 「はい」

 なかなか、様になっている

 ガイアナよりも短い弓を渡されているむくれているガブリエルが文句を言う

ガブリエル 「これ、ちっさくね?」*手書セリフ
      「おじさん!
       オレには、
       あっちの槍や斧を
       教えてくれよ」
      「あれが強そうだ!」*手書セリフ

 ガブリエルが家の外に立てかけられている斧を指差した

ビック 「まぁ、まず
     ひいてみろ」

 ビックはガイアナを顎で指し、ガブリエルに、その小さな弓でいいから、
 ガイアナみたいに引いてみろと指示した

ガブリエル 「こんなもん」
      「あ、・・・あれ」

 軽々ひけると思ったのに、手がぷるぷるしているガブリエル

ガブリエル 「ふ、ふーん」
      「ふーん」

 これでは矢は真っすぐに飛びそうにもない。
 顔を真っ赤にして弓をひいているガブリエルに、ビックが自分の背中を見せながら言う

ビック 「弓は見た目よりも、
     ずっと筋力が必要なんだ」
    「オレのガタイのでかさは、
     あの斧でも槍でもない」
    「若い時から強い弓を
     引いてきたせいだ」

 岩のような肩ごしに笑いながら、先ほどガブリエルが指さした斧や槍のところへ歩いて行った

効果音 『ドスンッ』

 斧というかハンマーに柄がついたものを、ビックがガブリエルの前に置いた、地面にめり込んでいる。
 実戦で使用する雷撃ハンマーだ。巨大な磁石と何重にも巻かれたコイルが内蔵されており見た目よりずっと重い

ガブリエル 「おぉ、かっけえ!」

 喜び勇んで飛びつくガブリエル。
 しかし、持ってみようとしても、子供が持ち上げられるものではない

ガブリエル 「ふーん、ふーん」

 顔を真っ赤にして、持ち上げようとするガブリエルに、説明するビック

ビック 「守護分隊でもな、
     最初の任務は、
     後方からの支援だ。」
    「仲間が戦いやすいように、
     安全な空域を確保したり、
     情報集めをするときにも、」
    「どんな時も離れた場所から
     攻撃できる弓の扱いは
     とても大事なんだ」

 なおも説明を続けるビックに、長屋の管理人の爺さんが家から首を出し声をかけてきた

爺さん 「ちょっと力持ちー、
     手伝ってくれぇい」

 ビックは喋りながら、爺さんのところへ行くと大きな大きな鉢の苗木を持たされた。ビックの家の隣の空き地にオリーブの木を植えたいらしい

爺さん 「おまえさんとこの横に、
     これ植えたいんじゃ」
    「ガイアナちゃん、
     ここ邪魔にならないかい?」

ガイアナ 「大丈夫!
      わたし外さないから!」

 矢で当てることはないから平気だよとガイアナが胸を張って言った。ビックは穴を掘りながらガブリエルに向けて説明を続けている

ビック 「あ、あのな。
     さっきの弓が、
     まともに引けるように
     なったら、」
    「その斧だって
     持てるようになる」

 ビックは苗木を植えるのを手伝わされながら、おかしいなぁ、なんでこうなるんだ、という顔をしている

ビック 「・・・せ、戦術ってもんが
     あってだな、優れた弓使いが
     いなければ斧も槍も無力・・・」
    「爺さん、こんなんでいいか?!」

爺さん 「おぉ、上出来、上出来」
ラファエル 「こうかな?」
ガイアナ 「うん、なかなかいいぞ」
ガブリエル 「ふーん、ふーん」
ラファエル 「くおぉ、プルプルする」
ドラゴ 「ブォオオオオ、ブォオオオオ」

 もはや、皆それぞれに今したいことをしていて、誰ひとりとしてきちんと聞いていない。ビックは先生には向いてない様子

ビック 「・・・と、ともかーく!」
    「守護天使の必修科目は三つ。」
    「弓、剣術、音楽だ。」
    「全て飛びながら
     できるようになることが、
     強い天使には最低限必要だぞ。」

ラファエル 「お、音楽も!?」

ビック 「天使っていったら
     竪琴とかラッパだろ」
    「俺は今から仕事だから、
     しっかり練習しとけ~」
    「やべ、遅刻だ遅刻!」*手書きセリフ 

 ラファエルの気持ちが落ち着いているのを見て安心したビックは、遅刻するわい、と急いで装備を抱えて飛び立って行った

 家の前では、長屋の管理人の爺さんが今度は嬉しそうにラッパを持って立っている

爺さん 「これも大事な科目です」

 ミカエルとドラゴにラッパを渡す爺さん

ミカエル 「えー、ほんとに?
      ラッパも必修なんかよ」

 植えられたばかりの樹を嬉しそうに眺めながら爺さんが言う

爺さん 「この木が実をつける頃には
     君たちも立派な戦士です」

 また、適当なことを言っている

 ドラゴが、なるほど、と器用に尻尾でラッパを保持した

爺さん 「ほぉ、器用じゃの」

効果音 『ブォオオオオオ!!!』

 ラッパから豪快に火炎が出た

全員 「うわぁあ」
ラファエル 「危ないよっ!」*手書セリフ

 尖塔へ越していった時はガイアナはビックの帰りをひとり教会で待っていたが、今ではすっかり長屋の爺さんが子守役になって賑やかだ

ガブリエル 「ふーん、ふーんっ!!」

 ガブリエル、斧を持ち上げることに、顔を真っ赤にしながらずっと挑戦中。
 樹は心地よさそうにサラサラと風に葉を鳴らしている
 
 
 

遭遇

○六区上空

 洋上を渡り鳥の群れが、Vの字を形作って飛んでいる。真っ白な翼と、紺青色をした外洋のコントラストが美しい。
 その眼下を9名ほどの天使が飛翔していく。腕に天使を模した輝く紋章、第六区守護分隊のビックたちだ。雁行と呼ばれるV字編隊を組む飛び方で、前を飛ぶ者の翼から発生する気流を利用し効率的に飛翔する。渡り鳥たちと同じ飛び方だ。最前列はビックと副長の2名が、ビックはやや左前方を大きな槍で武装し飛行中。その後ろを、かなりの矢を携行した弓で武装した者たちが連なる。襲撃に備えつつの哨戒行動だ。総勢9名ほどの編隊。皆、鍛え上げられた肉体で、大きな翼が晴天に眩しく輝く

 ビックが近くを飛行する無人の飛行艇を仰ぎ見る

ビック 「異常なし、だな」

 防空ネットを曳いた最新鋭の無人飛行艇だ。飛行艇からは左右にワイヤーが垂れ下がり、その先に数百メートルの巨大な蜘蛛の巣の様な真新しい網を吊り下げている。時折数名の隊員がネットに注意しながら飛行艇上部に取り付き作業をしている

 彼らは周辺空域の警戒監視をしながら、飛行艇の点検作業をしている

若い隊員 「大きいネットですね。
      こいつでトビヲを
      防ぐんですよね。」

 防空用飛行艇を間近で見るのは初めての若い隊員が、この最新鋭機に期待を込めた眼差しを向けている

若い隊員 「この飛行艇の大きな網で、
      軌道都市周辺空域へ
      侵入してくるトビヲを
      文字通り網にかける、」
     「ですよね。」

 学んできたことを暗唱するような隊員に、先ほどから各飛行艇の位置を確認していたビックが水を差した

ビック 「ま、そんな想定だが。」
    「奴らのスピードは速いし、
     そこまでバカでもない。」
    「こんなもの、
     気休めだぞ。」

 若い隊員は、なんとなく飛行艇と一緒に自分まで否定されたように感じて、不満そうに反論する

若い隊員 「でも政府は、
      完璧な防空装備だと、
      宣伝してますよ。」
     「最新式ですし、
      この無人飛行艇は。」

 ビックがジっと若者を見る

ビック 「戦うのは相手もこっちも生身だ、
     機械が戦うわけじゃあない」

 幾度も闘いを潜り抜けてきた者へであれば響く言葉かもしれないが、経験の乏しい若者にその言葉は届かない

ビック 「俺に言わせりゃ、
     こんな物に予算を割く
     お偉いさんは、」
    「トビヲに喰われて
     死んじまえだ」
    「どうせ天下り
     かなんかだ」*手書きセリフ
      ブツブツ

若い隊員 「そ、そんな言い方って、
      ありますかね・・・」

 若い隊員はビックの物言いが、ただ乱暴に感じ、この人はどうも尊敬できないしソリが合わないと感じている

ビック 「大空を覆い尽くすには、
     こいつはあまりに、
     小さすぎる」

 彼らの彼方には洋上に浮かぶ巨大な島、軌道都市第六区『エデン』が見える。大天使の輪と呼ばれる大きな半円のリングが聳え立ち、先日被災した尖塔付近では工事が始まっている。ビックの言う通り、外周を飛ぶ幾つものネットを曳いた飛行艇の存在は、この島全体の大きさからしたらあまりにも小さい。それでもビックたちは、一機づつ問題がないことを確認していく

ビック 「仕事だからなぁ、
     点検はちゃんとするぞぉ」

副長 「今日は視界がいいから、
    遠くまでよく見えますね」

 副長は好天で哨戒も点検もしやすいことを喜んでいる(純粋で良い人)

隊員 「大天使の輪が、
    あんなに小さい」

 キョロキョロしている若い隊員を気にしてビックが言う

ビック 「哨戒は初めてだったな」

    「よそ見していて、
     網にかかるなよ」

 冗談ぽく笑いながらビックが言った。若者はまたこの物言いも気に入らない様子だ

ビック 「全員、少し高度を上げろ」

 ビックが若い隊員がネットにかからないように、安全のため飛行艇進路と距離を取るよう指示したとき、後方から無線を受けた声が入った

隊員B 「電文です!」
    「本通信網の全駐屯地へ。
     空域8170、
     トビヲらしき雲、
     注意されたし!」
    「八区の中隊が向かっているため、
     交戦は不要だが六区も警戒を
     とのことです」

 彼らは軌道都市の円周上空域をマス目のように数字で呼ぶ。
 ビックが何かを思いついたように、ニヤリと言った

ビック 「・・・北西か。
     意外と近いな」

 風を読みながら、距離と到達時間を図り、近いと判断したビック。
 それを見て心配顔の副長が苦笑いしながら言う

副長 「良からぬことを
    思いついた顔ですね」

ビック 「そう言うな。」

    「若いの!」
    「見学させてやるぞ」

 ビックが踵(きびす)を返し、編隊は報告のあった方位へと向きを変えた

 内地勤務で演習でしか戦闘を経験していない若い隊員に、実際のトビヲを見せておこうというのだ。周囲の飛行艇の吹き流しを見ながらサーマルを捕まえ、一気に上昇していくビックとそれに続く隊員たち

 上空へ上がると遥か水平線の彼方に、黒い滲みのようなものが見える。真っ青な晴天の中で、それはくっきりと不穏な風を運んできている

ビック 「1体だけ、
     ・・・だな。」
    「俺たちで十分だ」

若い隊員 「こ、ここから、
     見えるんですか?!」

 副長が遮りながら発言する

副長 「彼方ですね、哨戒範囲外です。」
   「八区の連中に任せた方が。」
   「また、どやされますよ。」

 副長の前へ飛翔しながらビックが訂正する

ビック 「哨戒行動中に
     『極めて近く』で
     遭遇だ」

 「やれやれ」と副長。古参隊員たちが若い隊員に戯(おど)けて言う

隊員 「隊長は鷹の目だからな。
    とお〜くが近くに見えるんだ。」

ビック 「電文へは、
     『トビヲが六区へ侵入、
      応戦中!』
     とでも頼む」

 規定違反のビックに苦笑いしながらも、いつものことなのだろう「はいはい」とうなづく副長。通信担当も困り顔

通信担当 「それ。絶対
      バレますから」

 トビヲ討伐と聞いて勢いづき「よっしゃあ」と腕をまくる隊員もいれば、副長よろしく「ヤレヤレ」といった表情の隊員もいる。当の若い隊員はめっさ緊張気味だ

 ビック 「戦闘用意!」
 
 

○迎撃

 高空で風を捕まえ、美しいV字編隊で一気に群れへと距離を縮めて行くビックたち。眼下に巨大な黒い群れが見え出す

 遠くからは黒い滲みに見えたものは、無数の異形の者たちだ。トビヲ周辺を飛翔する異形の者を、ビックたちはトビヲと区別して『異形個体』と呼んでいる。その正体はトビヲの幼体だ。大きさは人くらいで、胡桃のような歪(いびつ)な頭部に、虚無を見つめるような複数の眼孔が並ぶ。餓鬼のように肋骨の突き出た胴体からは、バッタのように逆さに折れ曲がった脚が伸び、背面には虫のような半透明の小さめの羽が複数生えている。その奇怪な生き物は、乱ぐい歯から肉片や筋を垂れ下げ、奇怪な叫び声を上げ周囲を飛び回っている

 (叫び声を上げ続ける黒い群れ)

効果音 『ギャア、ギャア、ギャア』
    『ギャア、ギャア』

 無数に飛び交うそれは、群れの中心部が見通せないほど密集し、渦を巻いている。まるで羽アリの群飛だ。一帯は彼らが喰い散らかした肉片や体液が霧散し、黒い霧がかかった様になっている。近づく者は仲間であろうと、お構いなしに喰らいつく、その群れが軌道都市六区『エデン』へと向かっている

 その惨烈な光景に息を呑む若い隊員

若い隊員 「す、凄い数だ・・・」

効果音 『ギャア、ギャア、ギャア』

 近づくにつれ周囲の空間は奇怪な叫び声で満ちてくる。轟音で頭が変になりそうだ

 ビックが号令をかける

ビック 「迎撃隊形をとれ。」
    「駆除開始だ!!」

 V字型から縦一列に編隊を変容させながら、黒い雲のような群れの左サイドへと降下接近していく

若い隊員 「あ、あの黒い霧みたいな中に、
      トビヲがいるんですか?!」

 若い隊員が叫ぶ

若い隊員 「こんな・・・」

 こんな状況下で、どうやってトビヲ本体を攻撃するのかと焦る隊員に、前を飛ぶビックが冷静な声で指示する

ビック 「近づきすぎるなよ。」
    「あの群れの中に囚われたら
     ひとたまりもない。」
    「群れとのこの距離を
     よく覚えておけ!」

 緊張で生唾を飲み込む若い隊員

若い隊員 (ゴクリ)

 もはやビックとのソリの合わなさなど気にしている余裕はなく、この状況下を切り抜ける術を真剣に学ぼうとしだしている

 ビックが他の個体にしがみつき羽を休めている個体を指して言う

ビック 「あいつらの小さな羽を見ろ。
     異形個体は長時間は
     飛ぶことができない。」
    「こいつらは、
     トビヲを島のように
     使っている。」
    「群れからある程度、
     離れていれば、
     そう襲っては来ない。
     つまり、そういうことだ。」

 群れと距離を図りながら時計回りに旋回し中心を探り睨み見ていたビックが呟く

ビック 「あの中に。いる」

効果音 『ギャア、ギャア』
    『ギャア、ギャア』

 (無数の異形の者たちを纏わりつかせている巨大怪物トビヲのアップのカット。周囲は黒い霧がかかった様に、また、体表にも無数の異形の者たち)

効果音 『グワァアッ』

 トビヲの咆哮が響く。体表に巣食う無数の異形の者たちはトビヲの表皮を喰らって成長している。喰い散らかした肉片や筋を乱ぐい歯から垂れ下げ、奇怪な叫び声を上げている彼らは隙あらば隣の仲間だろうが、何でもお構いなしに喰らいつく。何も考えずに、攻撃にのみ特化し、強い者だけが生き残る。それが彼らの生存戦略だ。そしてはそれは一定の成果を収めだしている、実際にトビヲの襲来は増しているのだ

効果音 『ギャア、ギャア、ギャア』

ビック 「弓、構え!」

 隊員たちが号令に合わせ弓に矢をつがえる

効果音 『ギリリッ』

 群れが更に密集した動きに合わせて、ビックが攻撃の令を発した

ビック 「放てェッ!」

 一斉に矢を放つ隊員たち

効果音 『バシュ、バシュ、バシュ』
    『バシュ、バシュ』

効果音 『ドス、ドス、ドス!』
    『グエッ、ギャア、ギャア、ギャア』

 ビックたちは群れの移動速度に合わせ、その外周を一列になって飛行しながら、異形の者を一体また一体と迎撃していく。時間はかかるが確実な『駆除方法』だ。群れの飛翔スピードよりも速く飛ぶ必要があり、かなりの体力を要するがビックはこの旋回攻撃を好んで使う。一番安全だからだ。ビックはこう見えて自分たちの安全を第一に考えている

 若い隊員が速いスピードに追いつくのに必死で、弓の狙いが定まらず焦っている

若い隊員 「こ、このッ」

 狙いをつけていた異形の者が、こちらに背を向けた

若い隊員 「今だ!」

 群れから外れ、チャンスと思い矢を放ったが、矢は空を切った

効果音 『ヒュッ』

 異形の者はその矢を簡単に交わした。空洞に見えるその眼孔は、周囲を見ていないようにみえて、こちらの動きに素早く反応したように見える

若い隊員 「くそっ!」
     「こいつら、」
     「後ろも見えるってのか!?」

効果音 『バシュッ』
    『バシュッ』
    『バシュッ』

 矢を無駄に放つ若い隊員に、時折群れから外れ飛行進路に侵入してくる異形個体を、大槍で叩き飛ばしていたビックが一瞬横へ来て攻撃の仕方を指南する

ビック 「下手に狙おうとするな、
     密度の高いところへ放て。」
    「手前の奴が避けても、
     後ろの奴には当たる。」
    「黒い雲に放てばいい!」

若い隊員 「は、はい!」

効果音 『バシュ!バシュシュ!』

 物凄いスピードで進路の妨害になる異形個体を弾き飛ばし続けているビック。周囲をまるで分身の術でも使っているかのように飛翔しながら隊列をリードする

効果音 『ドカッ!バキン!!』

 (先頭にビック、後ろに隊員たちが1列になって旋回している大コマのカット。異形個体を大槍で叩き飛ばすビックは、ハイスピードでブレているような感じ、実際には時間遡上を使った冷静な対処だが、時間遡上については後述となるため、ここでは早い動きで二重に見えている感じで描く)

効果音 『ドドドドドド』

 黒い霧のような群れの周囲を、天使たちが旋回しながら攻撃を続けている。大量に携行していたはずの矢がみるみる間に無くなっていく。撃墜されていく様は遠目に見ると、まるで黒い雲から降る黒い雨の様だ

(全景。引きのカットで大きめのコマ。黒い霧を中心に白い天使たちが旋回しながら攻撃を続け、黒い霧の下部には異形個体が雨のように降り注いでいる様子)

 気運に乗った彼らの矢が2、3体を軽々と貫いていく

効果音 『ドスドスドス』

効果音 『ギャアギャアギャア』

 次第に薄れる黒い霧の中から、巨大な生き物が姿を表してくる。岩のようにゴツゴツした頭部、複数の忙しなく動く眼球、そして半透明の滑らかな大きな羽。全長は裕に20メートルはある、トビヲだ

 (前に天使たち、背景に巨大なトビヲ、比較で巨大さが分かるカット)

効果音 『グォオオオオ』

 喉の奥が見えそうな程に開いた口は、咆哮と共に大量の唾液を雨のように周囲に飛び散らせ、尖った岩のように剥き出した歯列は、周囲の何もかもを呑み込もうと音を鳴らす

効果音 『ギリギリ・・』
    『グァアアアオオオオオオオ』

 副長が周囲の異形の者たちの粗方を、始末したことを隊長のビックに伝える

副長 「残る異形個体は少数!
    射線、確保、できます!」

ビック 「ヨシ!」
    「大槍行くぞ」

効果音 『ブワッ』

 大槍を携行している隊員とビックの2名が、飛行の隊列から外れ上昇した。残った者たちは周回を続け、矢を放ち続ける、薄くなった異形個体の群れを貫通し、トビヲに矢は突き刺さる。が、トビヲはピクリともせず飛び続ける

 (弓矢単体ではトビヲには歯が立たない様子)

効果音 『ドス、ドス、ドス』*時折矢の刺さる音
効果音 『グォオオオオン』*悠然と飛び続ける音

 ビックたち大槍二名が、トビヲの上やや後方から狙いを定める。左舷上空から狙う隊員が一番槍だ、彼は一旦クイッと急上昇すると大槍と共に急降下した

効果音 『ギュン!』

隊員 「それっ!!」

 急降下爆撃機のように放たれる大槍。先端が開き厳つい刃が飛び出した、刺されば抜けない凶悪な代物だ

効果音 『ギョロ!』

 トビヲは激しく動く眼球でそれを捉え、素早く回避行動をとった

効果音 『グワン』*大きく右舷を下に斜めになり旋回するトビヲ
効果音 『ビュン』*スカる大槍

 一番槍がトビヲの左側を通過。外れだ。しかし、大槍はもう一人いる。トビヲの死角と太陽を結んだ直線上から狙い定めていたビックが急降下している、回避行動で傾いているトビヲの右舷へ大槍ごと突っ込んだ

 (横長のカット。トビヲの頭を左に尻尾を右に、右斜め上から急降下するビックがトビヲの向こう側へ姿を消す。両サイド手前に旋回攻撃中の隊員たち)

効果音 『ズドーン!』

 浮力を一身に受けていた右主翼付け根への渾身の一撃

 (主翼の付け根に大槍を突き刺し、そのまま下方へ飛び去るビック。トビヲの右側からのカットで、大槍が主翼付け根を貫き、周辺から粉砕された骨が突き出している様子を描く。落下し始めているためドス黒い体液は上後方へと流れている)

 トビヲが大きく傾いてゆく

 一番槍はブラフだった。陽動作戦による挟み撃ちだ。叫び声とも崩壊音とも区別のつかない轟音が周囲に響く

効果音 『グガァアアアアアオオオ』
効果音 『メキ、メキ、メキ』
効果音 『グォォン、グォォオン』

 回避運動で傾いて大きな揚力を受けていた右側主翼を損壊したトビヲは、ゆっくりと錐揉みしながら洋上へと落下していく。体勢を立て直そうとすればするほど、残る巨大な羽も干渉し激しく損傷していく。それに引きずられるように異形の者たちも海へ墜落していく

 思わず隊員たちから歓声を上がる

隊員たち 「ヤァアアアア!」

 海へ落ちたトビヲは再び飛び立つことはなく溺れ死ぬ。
 残る異形個体も長くは飛行はできず、最後は全て海中へと没していく

 海面を見下ろすビック

ビック 「群れの核になっている者が潰れると、
     その死を察したかのように、
     周りのこまいやつらは
     ぶっ壊れた玩具(オモチャ)
     みたいに取り乱す。」

 海面に浮かぶ怪物たち
 周囲には溺れる蟻のような異形の者たち

ビック 「で、最後は、
     ご覧の通り、」

    「海の藻屑だ。」

 両手を広げ、おどけて見せるビック。

 悪ふざけで口が悪いが、確実に結果を出してきた人なんだな、今はそう思い、聞き入っている若い隊員に、後ろから隊員Bが無線を準備しながら話しかけてきた

隊員B 「いい加減だけどさ、」
    「あれでも結構
     考えてるのよ、
     うちの隊長は。」

若い隊員 「そうみたい、
      ですね。」

 戦いを終えた若い隊員の顔は晴々としている

 紺青の大海原にV字編隊で帰投していく第六区守護分隊

ビック 「電文を頼む。」
    『本通信網の全駐屯地へ。
     トビヲ討伐は完了。
     六区守護分隊は、
     これより帰投する。』

 (広がる海と空、渡り鳥のように飛ぶ天使たち)
 
 
 

特訓

○看板

 ビックの家の前の看板、数十本の矢が刺さっている

 空を飛んで移動する天使たちは、空からでも玄関付近が視認できるよう、大きめの看板を家の前に出している。ビックの家の前にも幅40センチ、高さ1メートルほどの看板が出ている。看板には「Bick」と書かれ、「チラシおことわり」の注意書きの手書きの紙も貼ってある。注意書きには三角目の睨む目の落書きがされている、落書きには「見てるぞ」と吹き出しが描かれている。かなり分厚く堅い木製だ

 看板は家の前の空き地に引きずり出され置かれており、弓矢の練習台にガイアナたちが使っている

 看板に刺さる矢

効果音 『ドス、ドス、ドス』

効果音 『バス、ドス、バン』

効果音 『ゲス、ドン、バス』

 (横長の3段のコマ。上から順番に次第に矢が増えまくって、看板がズタボロになっていく様子。看板に落書きが追加されたり、背景の空き地のオリーブの木が成長したり、1、2年ほど経過していく感じ。さらりと数年の経過を表すように描く)

 少し成長したガイアナとラファエルが、並んで悠然と弓を構えている。子供の成長は早い、特にラファエルは背が伸びた様子

効果音 『ドヒュッ!バシュッ!』

 ふたりが同時に矢を放った

効果音 『バリン!!』

 とうとうボロボロになった分厚い看板が粉々に割れた

ビック 「あーあ。」

 今日は非番なのだろう、家の前に出したチェアで何かを飲んでいたビックが言った

ビック 「とうとう壊れたか」

ガイアナ 「ビック!
      新しい的を用意しろっ」

ビック 「えー?!」

ガブリエル 「今、勝負の
       最中なんだよ」

ミカエル 「ラファくんは60本打って、
      60本当たり!」
     「ガイアナちゃんは72本
      打って全部当たり!!」

ガブリエル 「100本勝負なんだ!」
      「俺はラファエルに
       賭けてるからな、
       ラファエルがんばれよ!」

 ラファエルは苦笑いをしている。ガブリエルの中身はまるで成長していない様子だ

 ビックの家の前は彼らの練習上と化している。ハンモックのような背もたれがやわらかい布でできたチェアから、めんどくさそうに身を起こしたビックが言う

ビック 「お前らは本気で
     守護分隊に
     入りたいのか?」

ラファエル 「当然です!」
      「僕は、本気で!」

ビック 「いや、おまえは分かる。」
    「親の仇だよな、強くなりたいんだよね」

ガイアナ 「私は!」

ビック 「いや、おまえでもない」
    「分かってる、
     おまえらふたりじゃない」

 ビックがガブリエルとミカエルを指差し言った

ビック 「おい、おまえらだ」ビッ

 その視線は、賭け事やらボードに撃墜マークを付けているだけで、弓の練習をしていないガブリエルとミカエルに向いていた

ガブリエル 「俺たちは、応援
       してるんだよ!」

ミカエル 「後方支援も立派な任務です!」

 ふざけて敬礼してみせるふたり。そうか、と、ビックが命令した

ビック 「そうか!よし!」
    「応援と後方支援か、
     なら新しい看板を今から
     用意するから手伝え」

ガブリエルとミカエル 「えーー!!」

 その様子を見て、くすくすと笑うラファエル

ガイアナ 「すぐ壊れないやつ!
      あの板がいい!」

 ガイアナが、長屋の管理人の家の前に打ち捨てられている、厚さ20センチはありそうな巨大な板を指差した。板というより、真っ二つの巨大な丸太に見える

ガブリエルとミカエルとビック 「えーー!!!」

 露骨に嫌そうな顔をする3人

ビック 「爺さーん、この板もらっていっていいかぁ」

 遠くから管理人の爺さんにビックが声をかけている。管理人の爺さんは苗木を手に出てきた。植木の手入れをしていたようだ

爺さん 「ほぉ、ええよー」
    「どうせ、使ってない木材だ」
    「運べればだけども、
     ホッホッホ」*手書きセリフ

 爺さんはからかいながら寄ってきた

ビック 「おい、そっちは
    まかせたぞ」

 ビックが下側を持ち上げ、ガブリエルが支える体勢だ

ビックとガブリエル 「せえっい!!」

効果音 『ズゴゴゴ』

 板の上部をガブリエルが肩に乗せ支えている、なかなかの力持ちだ。ミカエルはふたりの歩く前のガラクタをどけたり、がんばれ、がんばれ、と声援を送っている。こいつは生粋の『後方支援』らしい

 家の前にに真新しい巨大な弓矢の的が誕生した。新しい看板の前に寄りかかるように座って休むビックとガブリエル。予想外の労働で汗をかき、息が荒い

ビック 「おまえ、
     なかなか
     力があるな」

ガブリエル 「筋トレはちゃんと
       してるんだぜ。
       これでも」

 力瘤を作ってみせるガブリエル。最初にここへ遊びにきたときよりも肩幅も大きくガッシリとした体つきになっている。ラファエルだけじゃなく皆成長している

ビック 「あいつ、ほんと
     ズルいな」

 ミカエルを顎で指し文句を言うビック

ガブリエル 「ほんとに」

 ミカエルは看板に的をかけたり力仕事を巧妙に避け活躍中

ガイアナ 「ラファエルが打つよー」

 休んでいるビックとガブリエルに、ガイアナが全く配慮せずに言う。的の前は邪魔だからどけということらしい

ビック 「はーい、はい」

ガブリエル 「ラファエル!がんばれ!
       ガイアナに負けるなよ!!」

 汗をかきながらも、ガブリエルは賭けに必死な様子。試合が再開された
 
 
 

○オリーブの樹

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襲来

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樹の下で

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反撃

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ガチギレ天使さん

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-完-

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